仮説とは、100パーセントの論理的な裏づけがない不確かな事柄にたいして、核心に迫っていくために、推論して設定した「仮の真実」である。
仮説は、見えないものを見えるようにする道具となる。
「こう考えてみたら、辻褄があい、全体像が整理されるのではないか」
「こういう未来を描けば、やる気が湧き、思い切り仕事ができるのではないか」というように推論を展開しながら、それに基づいた調査をしたり、実際に行動を起こして様々なことを確認し、仮説を検証しながら、見えなかった事柄を見えるようにしていくのである。

目指す状況を描いたビジョンは、未来に関する仮説だと言うことができる。仮説の設定と検証には、謎解きの要素がふんだんに含まれている。
だから、仮説を立てて、それをどうやって検証してやろうかと考えて行動するのは、探偵小説の主人公になるようなもので、非常に面白い作業である。仮説を設定するためには、自分がもっている情報が重要になる。
情報にはさまざまある。
人から聴いた情報。新聞、雑誌、TV、インターネットなど、メディアから得た情報。自分自身が出会いや体験のなかで感じ、つかみ取った情報・・・。そういう情報を、どのように整理して仮説にするかは、自分の問題意識しだいである。
キャリア仮説は、自分の歴史をベースに、「なぜ、いまの自分があるのか」、「自分は何がやりたいのか」、「未来の自分はどうなっているのか」といったことについて推論し、それに自分が納得し、第三者も納得できる論理性を持たせたものだ。

アメリカの社会心理学者E・H・シャインは、「人がキャリアを形成する際の根源になるもの」として「キャリア・アンカー」と言う概念を提唱した。
アンカーとは船を停泊させるときにおろしておく「碇」のことだ。
シャインは、キャリア・アンカーを「個人が生涯追求していく自分の才能と動機と価値の型」だと定義した。
これを別の言葉で言えば、キャリア・アンカーは、「自分に何ができるのか」、「変わることのない自分の基本的な志向は何か」、「自分にとって価値のあることは何か」という、自分のコアにあるものである。
これらには、いずれも、「なぜ、自分にそれができると言えるのか」、「なぜ、その志向は変わることがないのか」、「なぜ、それは自分にとって価値のあることなのか」という理由がある。
実際は、理由が頭のなかに浮かぶより早く、直感的に確信を持てるような場合もある。それはそれで良い。
しかし、エンプロイアビリティの観点からいえば、その理由を自分自身でも納得したうえで、キャリア・アンカーについて語れることがとても重要なのである。
なぜなら、相手に伝わらないかぎり、相手は、この人に仕事をたのもう(この人を雇おう)という判断ができないからだ。

いっぽう、「キャリア・ビジョン」は、「将来、自分の仕事と人生をこんなものにしていきたい」というキャリアの未来像である。
未来に関する仮説は、どうせわからない先のことだから何でもありだと突き放して考えると設定できない。
「変数が多すぎて解けない方程式」になってしまうのである。
未来へのヒントは、過去にある。自分の歩んできた歴史や、それを背景にして存在している自分のなかにヒントを探すことができないなら、有効な未来への仮説を立てることは難しい。
キャリア・ビジョンは、キャリア・アンカーと深く関係している。キャリア・アンカーをうまく整理できていればいるほど、キャリア・ビジョンは描きやすい。
もちろん、過去だけで情報が十分だとは言えない。
自分が仕事をしていく社会や業界のトレンド、あるいは具体的な所属する企業組織や、これからお付き合いしていく人たちとの関係から得られる情報も、キャリア・ビジョンを描くうえで重要な要素となる。
しかし、いかに新しい情報を取り入れたとしても、根っこの部分を自分の歴史のなかに見つけることができれば、人が自信をもって未来へ進んでいくことができることは間違いない。

電話をして、相手が不在のとき、却って「この人とは縁があるな」と感じることがある。

電話をするのは、その日に電話する約束があったからだったり、相手から電話をもらったが不在で、折り返し電話しなくてはいけないときだ。

しかし、電話をかけなくてはいけないのだが、心のどこかで、いまはその人と話したくないな、と思うときがある。約束通り仕事が進んでいないとき、明日まで待ってもらったほうが、予定もはっきりして、スッキリした気分で自信をもって前向きの話ができるのに、今日はまだちょっと中途半端でノリが悪い話になっちゃうなあと思うときである。

それでも、そのタイミングで電話すべきだと思うので電話する。

そういうときは、電話の呼び出し音が鳴っている最中も、どこか心の中ではわずかながら引っかかるものを感じたりする。

ところが、相手が不在だったり、体調を崩して休んでいて、明日出てきますよという状態だったりすると、むしろホッとしてしまう。よし、この隙に頑張って、明日またスッキリとした気持ちで連絡しようと思ったり、申し訳ないけど、今日は遊ばせてもらって元気になって明日連絡させてもらうとしよう、などと思ったりする。

不思議に、こういう相手とはいい仕事ができる。多少、予定が遅れたとしても、却っていい結果が出ることが圧倒的に多い。後ろ向きの話、言い訳をしなくて済むから、その分関係もさわやかな状態に保つことができる。

「今日できることを明日に延ばすな」という格言がある。そういう心がけでやらないと成功しないという教えだ。かつて私が勤めていたリクルートの創業者、江副浩正氏は、そのことにいつもこだわってきたという記憶がある。それだから、リクルートを急成長させることができたのは間違いないだろう。

この格言にしたがったほうがいいときは、確かにある。しかし、江副さんには怒られてしまうかもしれないが、「明日できることを、無理に今日やるな」という格言があってもいいと私は思う。理屈で納得いく説明ができなくとも、なぜか、今日は無理強いしないほうがいいと直感が自分に諭すときがある。

自分が、なぜかそう感じたとき、相手がそれに合わせてくれたかのように不在だったり、都合が悪かったりしてくれた相手というのは、相性がいい人なのである。それは、楽でつきあいやすいというだけではない。成果のあがるいい仕事になるという意味でも相性がいいのである。

ぐうたら加減が一緒のレベルということもあるかもしれない。しかし、こちらも相手も、やるときは徹夜してやる。仕事が遅いということではない。

論理的に表現できないが、それは「波長」だと思う。

人間関係は、いつも、こうあるべきという理屈を全面に押し出して白黒つけようとしてはいけないものだ。

いい子の自分が、いつもうまくいくわけではない。ときには、悪い子同士、何とかしましょうよという構えが、創造的な結果をもたらすと思うのだ。

理論武装より相手と波長を合わせるほうが大事な場面は多い

佐々木直彦著
「仕事も人生も上手くいく人」の考え方
(すばる出版)

思考の整理は自分の整理からはじまります。自分の状況を知り、自分の中にある情報をもとにして導きだせる答えを探ります。

人は「自分と向き合い自分自身と対話することではじめて、周囲の人たちと響き合って新しいものを生みだし、未来にたどりつけるようになる」と私は考えます。自分と向き合うことを「リフレクション(内省)」といいます。しかし、実際には、リフレクションができている人は本当に少ないのではないかと、私はいつも思っています。

私はこれまで、コンサルタントとして自分自身が提案するだけではなく、多くのビジネスパーソンの提案をサポートしてきました。
企画や提案を「なぜやりたいのか」と聞いていくうちに、「やりたいこと」が揺らいでしまう人はたいへん多いです。
「やりたいこと」があっても「なぜ、自分がやりたいのか」を説得力をもって語れなければ迫力不足となり、結局プランは却下されてしまいます。
「なぜ、自分がそれをやるのか」を突き詰めていくには、自分と向き合って思考整理するしかありません。
しっかりと自分に向き合う時間をとれば、かならず何らかの答えがでてきます。それを見つけるだけで、自分の仕事のやり方や行動が変わっていくのではないでしょうか。

しかし、時には考えがまとまらなかったり、頭がなかなか回らないことがあります。
そのような時は、新しい視点や情報をもとに思考を展開させるのです。つまり、素材をもとに、自分の問いに答えをだしていくのです。
気になったフレーズを書きだすことで、それに反応して新しい思考が回りだします。また、書いた言葉から、新しいアイディアや問いが生まれることもあります。

私は、ノートを使うときは、ノートを開いた2ページ見開きが基本と考えています。
この見開きを

左ページ:情報を記録するエリア
右ページ:記録をもとに思考するエリア


このように考えると、さまざまな場面で思考の役に立つ使い方ができます。
左ページに、情報をメモしましょう。人の意見を書いたり、気になったフレーズを書き込んだり、直面している問題に関係する事実などを書いていきます。これが思考の「材料」となります。
右ページは、左ページのメモをベースに思考を巡らせるために使います。「問い」を書いたり、思い浮かんだ言葉を書いたり、整理のための図やイメージした絵やイラストを描いていきます。
右ページは、左ページの材料をもとに思考を展開させていくスペースとして使うのです。

ミーティングにも応用できます。
議論や内容を記録することだけに意識がいってしまって、その場で考え、それをまとめるためにノートやメモ帳を生かしていないことが多いのではないでしょうか。

左ページ:人の発言、議論の流れをメモする
右ページ:疑問点を書き出す、自分の意見をまとめる、議論の柱は何かを考える、これから先どう展開させればいいのかを考える

ノートの見開きを活用することで、自分のアイディアや意見を素早くまとめて発言できたり、未来に向かって有効な解決策を提示できたりするようになります。自分の思考を早く創造的に整理できるだけではなく、会議終了後に参加者に提供できる役立つチャート図ができたり、一味違う議事録がつくれたり、と、会議がより有意義になるための貢献ができます。

コンサルタントの仕事は、情報をもとにして考えて答えを見つけ、それをお客様に提供することです。
どんな思考をするかが、勝負の分かれ目です。
相手に行動を起こしてもらい、自分自身も行動を起こさないと成果は生まれません。
そして、行動はもとになる「良い思考」がないと起こせません。その行動を起こせる思考を、まずは自分で組み立てて、お客様に提供するのです。

良い思考は、問題解決と夢実現を可能にする最大の鍵です。
混乱した頭をクールに整理したいときも、思いを熱く語って誰かを説得したいときも、良い思考は欠かせません。
良い思考があれば良い行動が生まれます。決断できます。

ところが実際には、良い思考ができている人は、あまりいません。
多くの人が、一生懸命考えてはいても、残念ながら良い思考になっていないのです。
ですから、いつでもどこでもよい思考ができるということは、すごいことなのです。

良い思考の条件は、たった2つです。
1.ロジカル(論理的)である
2.魅力的でワクワクしてくる

ロジカル(論理的)であるとは、なぜそう考えたのか、裏づけがしっかりしているということです。
ぐちゃぐちゃだった頭の中が整理されます。
ですから、自信が持てます。そして、人に納得してもらえます。

魅力的でワクワクしてくるというのは、問題解決する視点に独創性があったり、目指す未来像が魅力的だったり、そこに至る方法がワクワクしてきたりするものだということです。
ですから、自分自身のモチベーションが高まりますし、周囲の人をその気にさせて巻き込むことができます。そして、未来が拓けるイメージが湧いてきます。

ノートを活用して、私は、この2つをいつも自分の眼に見えるようにしてきました。
ノートほど、自由に思考をスタートさせ、整理し、進化させるのに向いている道具はありません。
最大のポイントは紙のノートの自由度です。
大きな字、小さな字、あるいは図や絵を好きな場所にぱっと書いて思考の勢いを止めずに、記録できます。
誰かと会って話をしていて、重要な内容をメモし、まとめたいときもノートは便利です。
目線を上げて相手を見たり、目線を下げて書いている字を見たり、という状況変化がノートを使っているときはわかりやすく、相手にとってこちらの進行状況が理解しやすく、コミュニケーションが円滑にいくからです。

「なかなか解決しないことがあってスッキリしない」
「一体なんでだろうと頭が混乱する」
「どうしてもやりたいのにうまくいかない」
こんな悩みを解消するために、ノートは、とてもシンプルに力を発揮します。

ノートを開く
「なぜなんだろう」とまず書いてみる
そして、自分と向き合い、頭に浮かんだことを書き取っていく

この単純な動作が、非常に大きな一歩になります。ノートとペンがあれば、いつでも、どこでもとりかかることができます。
誰かに見せるものではありませんから、字が汚くても、乱暴な殴り書きでもかまいません。心のままに書いていくことが大事です。

この作業をすると、書き出した言葉を自分の目で読むことになります。そこに大きな意味があります。
書き出した言葉こそ、自分の思考そのものです。それを読むとき、ひとは第三者の目を持てます。ですから、それを見ると、自分のことも、自分の置かれた状況についても、客観的につかめます。
それまでは、見えていないことがあり、だからこそ混乱していたのです。
これだけで、頭の整理は確実に進みます。
そして、自分がこうありたいと願っていることや、やりたいことも見えてきます。すると、「こうすればいいのではないか」という自分なりの仮説も浮かんできます。
まだ最終結論ではなくとも、ここまでいくと、ずいぶん気持ちは楽になるはずです。
さらに、次に何をすればいいか具体的なイメージが浮かび、希望が生まれ、前向きな気持ちが生まれます。
何もしないで終わってしまい、頭の中がゴチャゴチャしたまま、前にも後ろにも行けないイライラを引きずってしまった経験はありませんか?
そうならないために、まず「なぜ、こうなってしまったんだろうか?」と、「問い」を書きだしてみてください。

私は、これまで20数年間、コンサルタントとして1万人以上の「問題解決したい人」「何かを成し遂げたい人」と会ってきました。
相手は社長から若手社員まで、業種も職種もさまざまです。
やりたいことがあるのに行き詰まる人は、少なくありません。
そういう人たちのあいだには、ひとつの共通点があります。
それは、人をその気にさせるロジックを語れていないということです。

人をその気にさせるロジックがないということは、裏を返せば、自分自身もその気にさせられない、ということです。
ですから、やりたいことを人に語っているうちに、モチベーションが下がっていきます。
そして、やっぱりダメだな、となってしまうのです。

多くの人が、一生懸命考えてはいても、残念ながら良い思考になっていないのです。
良い思考は、問題解決と夢実現を可能にする最大の鍵です。

問題をしっかりと整理する
自分自身の置かれた状況を客観的につかむ
未来を描く
解決策を立て、未来への道筋をまとめる
自分をやる気にする
人をその気にさせて一緒に未来を良いものにすべく行動を起こす

良い思考はこれらを可能にします。
短時間に効率よく組み立てていけるかどうかの分かれ目は、思考を可視化して考えられるかどうかにかかっています。
可視化の方法はたくさんありますが、1冊のノートでできるようになります。
それが「考えるノート」です。

ぐちゃぐちゃになった頭を整理するのが苦手な人、人間関係でうまくいかずに悩んでいる人、大丈夫です。どうしたらいいかが見えてきます。
やりたいことを実現するために誰かに手伝ってもらいたい人は、かならず目に見える変化が起きます。
上司を説得できる提案書をつくることに苦労している人も、この方法で、きっと明るい展望がひらけてきます。

方法はとてもシンプルです。

ステップ1.頭に浮かんでくる言葉を書き取る
ステップ2.絵を描いて考える
ステップ3.真ん中に「問い」を書く
ステップ4.ノートの見開きに整理する

これだけで「普通のノート」は「考えるノート」になります。
次回は、なぜこの方法なのか?どんな意味があるのか?どんな効果があるのか?を具体的にお伝えします。