いま、組織の変革は個人のキャリア創造に役立つものでなくては受け入れられなくなっている。
その理由は、一生同じ会社に勤めるという基本モデルが崩れたからである。
ひとつの会社に勤めつづけるという前提でものを考えようとはしないビジネスパーソンは増えている。それは人材流動化が起きにくいとされてきた不況のときでも変わらない。なぜなら、不況のときほどリストラが行われやすいし、吸収合併や再編が起こりうる。最悪の場合は倒産もある。企業の業績が好調のときですらリストラが行われるという認識がひろがっているからだ。
企業変革を進める際は、変革が、ただ企業の経営をよくするということだけでなく、個人のキャリアにとってもプラスになるという側面を提供できるかどうかが、社員が本音で共感し、協力して変革を推進できるかどうかの分かれ目になると言っていい。
このままでは我が社は生き残れません、というだけでは、社員はやる気にならない。
むしろ、高いエンプロイアビリティをもち、「この会社にいては危ない」あるいは「他社に移った方がやりたいこともできそうだし報酬もいい」と考える人から順番に転職してしまう危険すらある。
しかし、逆にこう考えることもできる。
変革が必要な会社で、自分の専門能力を生かして変革に関わり成果を上げることができれば、それは最高のフィールドワークになる。
つまり、プロフェッショナルとしての実績をつくるチャンスがそこにあると考えるのである。
逆説的だが、人脈もあり、情報も人間関係の相関図や組織の特殊な力学構造もわかっているいまの会社で、プロとしての能力を、たったいまから磨いていくことができれば、他社に転職して新しい仕事をはじめるよりもずっと早くエンプロイアビリティを身につけることができる。
成功すれば、いまの会社がよくなって自分の影響力も高まり処遇も上がるだろう。
結局あとで転職するにしても、いまよりアピールできる材料は増え、条件が良くなる可能性が高い。
新規事業の創造や組織変革にかかわるプロジェクトに参加することは、エンプロイアビリティを高める方法だと言える。
プロジェクトを自分自身で提案し立ち上げ成果をだせば、それは高く評価される実績となる。
つまり、こういうことだ。

相手にソリューションを提供せよ。
プロジェクトで成果をだせ。
それは、そのまま、エンプロイアビリティとなる。

プロジェクトには、発案者の個人的な目標が見え隠れしていることが少なくない。
プロジェクトを通して自分がどんな能力を磨きたいか、どう自分を変えたいか、何を体験したいか、成果をあげることで自分自身がどういうアドバンテージを獲得したいか。
こういう自己変革やキャリア創造を意識した目標もあれば、昔からの夢を実現させたいとか、自分の体験をもとに「どうしても社会のこういう部分を変えたい」という思いを実現させるためという場合もある。
もっと泥臭く、プロジェクトをやるのは一旗揚げてどうしても誰かを見返してやるのが目的だとか、借金を返すためにはこれを成功させなくてはいけないからやるとか、有名になってテレビに出るのが本当の目標だという場合もある。
こうした個人的な思いが背景にあるプロジェクトは、実は非常に多い。そして、そういう強い動機があるから成功への執着がうまれるということもいえる。
プロジェクトに参加するメンバーやサポーターたちにとっては、示されたプロジェクトの目標が共感できるものなら、発案者に個人的な別の目標があっても問題ではない。
むしろ、そういう背景もあってプロジェクトが発案されたのだということがわかる方が「なるほど」と納得できるし、それがわかりやすさにつながるという点でプラスに働く場合も多い。
メンバーたちやサポートしてくれる人々の側にも、「個人的にも付加的なメリットを得たいものだ」という想いがある。
もちろん、個人的レベルの目標だけが前面に強くでてしまい、参加者を軽視するなら共感者は集まらない。集まったとしても、多くの人はどこかで失望し去っていくことになる。
プロジェクトは、自分が「こういう自分になりたいから」というだけでは、やはり成立しない。
多くの人を巻き込むプロジェクトであればあるほど、目標には「公共性」が必要になる。
「社会や組織、あるいは集団にたいしてどういう貢献ができるか」という公共の利益への志向がないと、多くの参加者を集めるプロジェクトのビジョンや目標はつくれない。
周囲と響きあえるプロジェクトにするには、「もし自分が相手の立場なら、なんとか現状を変えたいと思うだろう」といった感情移入も必要だ。
しかし、プロジェクトを発案する際に、自分の個人的な思いを抑える必要はまったくない。
むしろ、そこからスタートし、その思いに共感してくれる人を探して巻き込んでいった方が成功する。
それだからこそ、気をつけなくてはいけないことがある。
すべてのプロジェクトは、いくら公共性のあるビジョンと目標を掲げていたとしても、もともと個性的であり、革新的である。プロジェクトにはかならず現状を否定する要素があり、ぶつかる相手が登場する。
現状を変えたくない人はいつも存在する。また、能力のある目立つ部下に対して警戒心を持つ上司は必ずいる。
したがって、それを乗り越えるリーダーシップが必要になる。
鍵となるのはプレゼンテーションである。

プレゼンテーションが仕事をつくりだす

自分で仕事をつくりだせる人のエンプロイアビリティはつねに高い。
そういう人は雇い主やクライアントに新しい価値を提供できるし、自分で自分を雇える可能性も持っているからだ。
自分で仕事をつくりだすためには企画がなくてはいけない。しかしそれ以上に、提案がなくてはいけない。
プレゼンテーションするからこそ、新しい仕事を仕事として認めてくれるクライアントやボスが登場するのである。
フィールドワークというのは、プレゼンテーションをくり返し、自分を認めてくれる相手との双方向のコミュニケーションをとりながら、自ら新しい道を自分の前に切り開いていくことでもある。
プレゼンテーションが上手いか下手かによって自分のやりたいことが実現できるかどうかが決まってしまうことは、現実には非常に多い。
新しい仕事、すなわちプロジェクトを想像するプレゼンテーションに求められる4つの条件がある。これらはいずれも、相手を「気持ちよく、しかも責任を持って支援しよう」という気にさせる要素でもある。

1.相手とのWIN-WINの関係が生まれるプレゼン

自分のやろうとしていることが、相手にとっても何らかのメリットになるということを示せれば相手は前向きになる。こちらからしっかり示す必要は必ずしもない。相手がそう感じるような情報を盛り込んでおけばいい。
WIN-WINの関係といっても「ウチが儲かれば、必然的にオタクも儲かります」というような究極的なものである必要はない。
「この仕事をこいつにやらせれば、自分が欲しい情報が集まることにもなる」とか、「今回の彼の提案は、日頃、自分が営業部長会議で競合に打ち勝つ戦略を一人ひとりが考える集団を作るといってきたことの証明になる」とか、「自分の部下が隣の事業部のキーマンとプロジェクトを成功させれば、やらせた上司の自分にとっても悪くない」とか、あるいは単純に「この話には俺の趣味にあう部分があるな」と思ってもらうプレゼンが重要だということである。
プレゼンテーションは、自分の考えをまとめて資料を用意しておくのはいいが、一方的に話すだけでは絶対にだめである。
WIN-WINの関係をつくるには、自分の提案にたいする相手の反応を受けとめながら会話をし、その場でベストの着地点をお互いに見い出していこうとする姿勢が、どうしても必要だ。

2.動機に社会性があるプレゼン

何のためにその仕事をするのかという目的のなかに、自分ひとりの利益を超越したものが明らかにふくまれているとき、プレゼンテーションされた相手は、その意志をむげに否定することはできない。さらにその提案が、ビジネスに何らかの利点をもたらすものであれば、ますます否定できなくなる。
ひとりの人間として、その社会貢献意識に共感してしまうこともある。
「生産現場で働く人たちを元気にして、同時に事故も減らしたいんです」とか、「このガイドブックをつくってユーザーに配付すれば、正しい商品選びができるようになるはずですし、劣悪品が市場から淘汰されて業界の信頼性が高まることに役割を果たせると思います」と言われれば、理由もなくそれを潰してしまっては忍びないと、誰でも考えるだろう。
新しいプロジェクトを提案する時、こういう論理構成のプレゼンはうまくいく。
ただし、なぜそれを自分がやるのか、自分がどこまでできるのかに納得性が示せないと、相手は信じることができない。コストや方法論など、ビジネスとしての整合性も必要だ。
「社会性」のレベルが高ければ高いほど、どこまで自分がその目的に思い入れをもってプロジェクトのイメージをシミュレーションしてきたか、自分の能力を磨いてきたかという点が問われることになる。

3.仕事の影響力をイメージできるプレゼン

どんな人でも、おもしろい事件が起きることを欲している。
同じ仕事をするなら、わくわくどきどきしながらやりたいと思う人は多い。
そういう心理に応えるプレゼンテーションはうまくいく。
結果として、ひとりの人間が新しい仕事を創造し、周囲を活性化させ、ビジネス上も何らかの付加価値を提供してくれるなら文句のつけようがないのである。
新しい仕事がうまれることによって、どんな物語が展開していくのかがイメージできると、誰でも、その物語の先が見たくなる。
未来へのストーリーを提供できるプレゼンは、いいプレゼンである。
これまでにないことをやろうとすると、抵抗勢力があらわれることは多い。
プレゼン相手が抵抗勢力ということもありうる。その場合は、いかにWIN-WINの関係をつくれるか、社会性に訴えられるか、そして、それを否定してしまったときにマイナスの影響がおきるリスクを感じてもらうかがポイントになる。
それでもダメな場合は、外堀をうめていく。つまり、プレゼン相手に対して影響力のある人たち、ときにはユーザーの声や世論に訴えていくことだ。
もともと周囲に対して強い影響力をもった人が「これまで真剣に考えてきたうえでの提案です」といって筋のとおったプレゼンをすれば、提案は通りやすい。
それは、提案者の背後に提案を指示するだろう多くの人々の意思を感じるからである。
新しい仕事が周囲にもたらすプラスの影響をイメージできるほど、意思決定者は、その提案を否定しにくくなる。

4.プレゼンターの人生がわかるプレゼン

新しい仕事をやりたいという提案をうけたとき、何が気になるだろうか。
提案内容の善し悪しはもちろんだ。だが、「なぜ、この人はこういうことをやろうというのだろうか」という動機を知りたいと思うだろう。
新しい仕事をやりたいという理由が腑に落ちたとき、提案を受ける相手は、なるほどそういうことかと安心できるのである。そのうえで、その人のビジョンやスタンスが気に入れば応援したくなる。背景に、その人が背負っている人生が見えれば、提案を軽く扱うことははばかられる。
「自分が人生の中でやりたいことは何で、自分には何ができ、これまで何をやってきたのか」がわかり、「だからこういう仕事をしたいのです」という論理構成はプレゼンテーションを納得感の高いものにする。
提案が周囲に価値をもたらすものであるかぎり、提案動機の個人的部分も、プランに対する提案者のやる気の証明であって、実現へのエネルギーになると考えることも多い。
提案者の明確なキャリア仮説がみえてくるプレゼンテーションは、提案の受け手を、「サポートしてやらなくてはなるまい」という気にさせるのである。

人間というものは、相手にプロフェッショナリティを求めるときに、単にロジカルで技術的な能力のみを求めるのではない。
相手がたしかな価値提供をしてくれるかどうかはもちろん気になるが、相手が人間的にどんな人かということも気になる。自分がこれからかかわろうとしている相手が、できることなら人間的にも素晴らしい人であって欲しいと心の中で願っていない人はいないといっていい。
現実的にはそこまで望めないと思っても、なんらかの心が通じ合う要素は欲しいと思うものだ。
だから、スポーツの話なら何でもついていけるとか、山と湖と渓流釣りが趣味だとか、映画や芸能界ネタには詳しいということも、単純に雑談して肩の力をほぐしながら「なじみ」をつくったり、まじめな話の前段にするという意味では貴重なのである。
雑談だけでも、お互いに相手の人柄や問題意識はかなりわかる。
仕事とは関係なさそうに思えるテーマについて話しながら、その人の仕事での能力やスタンスをなるほどなと実感できることは多い。

全国の隠れたうまい自家製のうどんを食べさせる店を探して歩き、六百軒を超える店の情報をストックしていて、しかも何軒かのうどん屋さんからメニュー開発とお客をふやす方法について提案して欲しいといわれてそれに応えてきたという話を聞くと、「この人は地道に自分の脚で何かを探す能力や情報整理の技術がありそうだ」と想像しないわけにはいかない。
文字どおり自然体で相手に「食い込んで」信頼され、なんらかの問題解決をすることもできる人ではないかとも思える。
こちらのほうからも、いろいろと聞いてみたくなる。もちろん、どこのうどん屋がうまいかということもふくめてだが。

絵本が好きでボランティアで毎月五冊ずつ自分で選んだ絵本と児童書をある施設に寄贈し、十五年以上、月に二度子供たちに読み聞かせに出かけ、読み聞かせをとおしてかなり多方面に人脈が広がっているという話を聞けば、その人の人柄はもちろん、ねばり強さや、社会意識を知ることになる。最近の子供たちがどのような特徴のある子供たちなのかについて聞いてみたくなるかもしれない。
どんな施設なのか、なぜそういうことをはじめたのかということを聞けたなら、さらに、その人の人生にたいするスタンスが見えるだろう。ストーリーとしても興味深いものがあるはずだ。大げさに考えなくても、意外に身近なところに、自分のできる社会貢献があるということを教えられるかもしれない。
仕事を頼むならそういう人に頼みたいと思う人は少なくないだろう。
社会貢献イメージが求められる企業の研究所では、そういう人をトップにしたいと考えるかもしれない。また、功成り名を遂げ金もある人がその話を聞けば、資金と人脈を提供し、活動をひろげる支援を申し出たいと思うかもしれない。
その人のもっている人間的要素が、ときにはロジカルでテクニカルな専門能力よりもはるかに、その人を一段高いレベルのプロフェッショナルに押しあげるということは少なくない。
専門能力がなければプロフェッショナルとは呼べない。そのいっぽう、プロフェッショナルほど、人間的要素が求められているといえるのである。

一つのビジョンのもとに、人々の力を借りて「新しい何か」を創りだし、現状を変えること
それがプロデュースである。
もっとも自分らしい仕事を自分の手で生みだし、その仕事によって、自分と関係する人々、あるいは広く社会に対して価値あるものを提供する。そして、同時に、自分自身の人生、キャリアを切り拓いていく。
こうした生き方を実現することは、周辺世界と響きあいながらプロフェッショナルになろうと志向する人々にとって最大のテーマであり、夢である。
専門性を磨いて、自立し、刺激に満ちた時間のなかで自分のやりたいことを追求し、それを社会のためにも役立てていくということは素晴らしい生き方だろう。それが自分の社会的評価につながり、さらに生きる糧を得る手段となるなら言うことはない。
こうした生き方を追求する人は、みずから変化を創りだす。
変化は、社会(あるいは組織、市場、業界、数人のチームやサークル、家族など小さな集団)に影響を与え、サムシング・ニューをもたらす。そのプロセスでは、変化を起こすという試みにさまざまな人々が共感とともに参加していく。そこには、関わった人たち一人ひとりがキャリアを拓く場がつくられ、彼らの人生に大きなインパクトをもたらす。
そして、何より自分自身が変わっていく。
このような行為こそ、プロデュースである。

プロデュースには、やってみなければわからない要素が必ずある。
「本当にできるのか」という疑問は、自分のなかにも、プロデュースに参加してくれる人々の間にもありうる。
そういう「不確かさ」のなかで人を説得し、いっぽうで自分のモチベーションを維持し、「不確かさ」を乗り越えて先に進んでいかなくてはいけない。
したがって、プロデュース思考は、湧いてきたアイディアが、本当にやるべきものなのか、自分は本当に「やりたい気持ち」を持ちつづけられるのか、本当に人々のためになるのか、といったことを自分のなかで何段階にもわたってシミュレーションするプロセスでもある。
そして、自分自身が直感的に「これは素晴らしいアイディアだ」と感じたことを、「自分はこれをやりたい。実現すればきっとすごいことが起きる。これはやる価値がある。そして、これで実現できる」とアイディアを検証して、プロデュース実現への確信を深めていくプロセスでもある。
直感的に出てきたアイディアを、「魅力的な未来を創るために有効であり、やるべきことなのだ」と説明できるものにするために、どう論理を組み立てていけばいいか。
どういうアプローチで伝えていけば、共感してもらうべき人に共感してもらい、支援を得たい人から支援を得られ、説得すべき人を説得できるか。
そもそも、このプロデュースを仕掛けようという自分自身は、本当にやる気になってこのプロデュースにエネルギーを燃やせるのか。

7つの問いに答えを出す過程で、これらが明確になっていく。

それが、プロデュースを仕掛ける自分自身が自信を持ち、モチベーションを維持しつづけ、説得力を持って人を巻き込んでいく源泉になる。

7つの問いに答えを出す作業は、多くの人に構想を話す前に、まず自分に向かって頭のなかでプレゼンテーションし、プロデュースを仕掛ける自分自身がプロデュースの価値を認識していくプロセスだといえる。

<7つの問い※>
(1)ビジョンは何か(自分は何がやりたいのか)
(2)なぜ、そのビジョンなのか(なぜ、それをやりたいのか)
(3)コアテーマは何か(突破口を開く鍵となるアイディアは何か)
(4)自分に何ができるか(自分の果たす役割は何か)
(5)誰に何をやってもらうか(誰にどんな役割を担ってもらうか)
(6)大義名分は何か(なぜ、このプロデュースが必要か)
(7)付加価値は何か(どのような波及効果が生まれるか)

※「七つの問い」については、こちらの記事もご覧ください。
プロデュース思考の全体像①
プロデュース思考の全体像②
プロデュース思考の全体像③

佐々木直彦のnoteより

ビジネスパーソンが壁を越えるとき、あるいは脱皮するときのパターンを、「技術・企画レベルの高度化」と「コミュニケーションレベルの高度化」の二つの軸をとって、キャリアの発展構造から考えてみることができる。
人は誰でも技術・企画志向とコミュニケーション志向のどちらかを持っている。二つを併せもっている人が多いが、おおむねどちらかの志向が強い。
職種によって、かなりどちらかに重点があると思われるものもある。代表的なところでいえば、営業マンはコミュニケーション志向が高い人が多く、開発設計担当者は技術・企画志向が強いものである。
ところが、組織のなかでキャリアを積んで役職があがるにつれ、営業マンはもちろん、開発設計マンをふくめてすべての職種で、「コミュニケーションレベルの高度化」の軸の重要度が上がってくる。
それは、キャリアを積むほど、リーダーシップを発揮してほしいという組織の要求が生まれ、また、夢の実現に近づいていけばいくほど、より多くの人たちの協力が必要になってくるからである。創造的にディスカッションしたり、人を説得したり啓蒙する場面は、やりたいことができるようになるほど、自分に影響力が生まれるほど増えるものなのである。
したがって、技術・企画要素の強い仕事をする人ほど、自分を評価して新しい役割を与えてくれる人や、自分の技術を何かとマッチングして新しい価値を創造してくれるプロデューサーとの出会いがブレークスルーにつながりやすい。あるいは、自分自身がプロデューサーとしての力をつけていくことによって新しい世界がひらける。
逆に、もともと人脈やネットワークを広げてビジネスを展開しようとする志向の強い人の中には、自分が知らなかった新しい技術やコンセプト、思考の枠組みなどと出会ったり、自分自身が技術力・企画力を身につけたり発揮したときに壁を越えるケースが多くみられる。
法人相手に問題解決を提供する営業マンは、特定分野に関する専門能力と提案力が要求される。顔が広いとか、好感度があるというだけではいずれ壁にぶつかってしまう。
社内の技術スタッフと対等かそれ以上の問題意識を持ってプロジェクトリーダーの役割を果たせるかどうかが、ブレークスルーのポイントになる。
継続的に学習研鑽して専門能力を高め、高い問題解決能力を発揮することではじめて、クライアントから深く信頼され、社内にも影響力を強めて、大きな仕事ができるようになる営業マンは少なくない。技術・企画レベルを高めることで、コミュニケーションレベルも高まるのである。
個人相手の営業でも同じことがいえる。
たとえば、生命保険の営業では人脈・ネットワークは命である。人に気に入られ頼りにされなくては顧客は広がらない。人間的に好人物で顧客から「可愛がられる」ことは大きなプラスだが、それだけでは限界がある。
顧客である中小企業経営者の財務アドバイザーができるような能力を身につけたり、高度なシミュレーションや独自のプレゼンテーションを可能にするスキルを持ったり、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取ったり、人生設計に関して共感できるコンセプトを提案したり、さまざまな事例をもとに分析して評価できる能力を磨き、クライアントに問題解決を提供できて、はじめていい人脈をつくっていけるのである。
問題解決型の営業マンは、どんな業界でも、技術・企画レベルを高められるかどうかが壁を越える条件になる。
自分自身の専門性やビジョン、コンセプトが評価されたときに自分に対する信頼性や期待が一段と高まり、人脈・ネットワークがそれまで以上に生かされるということである。