人は誰も、自分が肯定されたとき、自己愛が満たされたときに、エネルギーを出せる。
どうしてもやりたいことがあるとき、理屈ではうまくいえないけれど「やるべきだ」ということがあるというとき、「そんなの無理だよ」「いっていることがよくわからないよ」「俺はやる気がしないな」などといわれてしまうと、モチベーションは下がってしまう。いわれた相手が、身近な人、頼りにしている人なら、なおさらだ。
自分のやる気を維持するために、他人の肯定的な反応を必要とするのが人間というものなのである。
新しいことに挑戦しようとするときは、特にこの傾向が強い。
プロデュースという、説明が難しく、しかも不確実なことをやろうとするときは、ただでさえ、理解してくれない人がたくさんいるのがあたりまえだ。
自分の意欲を受けとめてくれ、発想を肯定してくれる人との心理的な交流は、非常に大きな心の支えになる。
いくら自分のビジョンや戦略に自信を持っていたとしても、構想を現実化していくときに、反発を受けたり、たたかれたり、妨害されたりすれば、気持ちが揺れるのが人間である。
新しいことを仕掛けるときには、必ず壁があるものなのだ。
そのときに、「あなたは正しい、あなたならできる、私は信じる、応援する、一緒にやっていこう」というメッセージを送ってくれる人が身近にいることによって、はじめて前に進んでいける、という部分が多かれ少なかれ人間にはあるのである。
乳幼児精神医学の権威ロバート・エムディは、子供がはじめて何かに取り組むときに、やり方を教えてくれる人、見守ってくれる人がいて、うまく行ったときに喜んだり褒めてくれたりすると「やる気」を起こすという。
これは、大人になっても変わらない。
新しいことに踏み出そうとするとき、人間は、かつて自分が子供の頃何かをやろうとしたときに母親や先生が温かい目で見守ってくれたように、自分を肯定してくれる誰かの応援を心理的に強く必要とする生き物なのである。
自分自身を信じることも大事だし、抵抗や障害に屈しない強さも大事だ。だが、プロデュースをカタチにするには、自分を肯定してくれる人のサポートが非常に重要なのである。
目的を共有するチームのなかに、互いに相手を肯定しあえる関係、自己愛を満たしあえる関係があれば、実行力は高まる。
新しいことを仕掛ける企業の経営者の周囲には、誰か必ず、経営者にとっての母親役を果たしている人物がついているように思える。その人物は、何らかの実務的役割を果たしながらも、経営者に対して、安心と癒しと元気づけをする役割も果たしている。
ベンチャー企業なら、必ずそうした役割の相棒がいるといっていい。
創業者は、間違いなくやる気に満ちているが、不安も抱えている。無理もしている。表では、自分の夢とビジネスの可能性について、元気いっぱいにあちこちでプレゼンしていたとしても、一人になったときは不安と寂しさで倒れそうになっているという人は少なくない。とくに多額の資金を借りたり、出資してもらって創業する際は、いくら自信家でも、本当にこれで大丈夫なのか、仲間たちは本当に自分を見捨てず手伝ってくれるのか、不安なものだ。
これは社内ベンチャーでも、そう変わらない。
新しいことをはじめる人はみな、誰かの支えを欲している。
その「誰か」とは、共同経営者という場合もあれば、腹心の部下という場合もある。秘書という場合もありうる。また、契約コンサルタントという場合もありうる。あるいは、家族かもしれない。

シンガーソングライターであり音楽プロデューサーのスガシカオ氏は、新しい曲が浮かび、これはいけると思うと、深夜でもバンドのスタッフたちを呼びだすという。
スタッフからみれば明らかに迷惑な話だが、自分のなかで急速に曲が浮かんだホットな段階で気心の知れたスタッフたちに聞いてもらうことで曲のアイディアが作品として形になっていき、自信を持って世に出せるという気持ちが高まっていくのだという。
スタッフたちは、呼び出されるたびに、「またか」と思いながらも、スガシカオ氏に必要なことだと受けとめてスタジオに集まり、曲の完成に協力する。
もちろん、その曲は、作詞作曲はスガシカオ氏だが、みんなで音をつくり演奏する曲になる。そうやって、スガシカオ氏は、これはと思う曲ができるたびに、慈母の役を果たしてくれるスタッフの愛情を確認しながら、「この曲はいける。やろう!」というモチベーションを高めているといえる。
そして、実際それが、前面に出て歌い、メディアで発信するスガシカオ氏のパワーを高め、結局はチームとしてのパワーを高め、新曲の成功を生みだしていると考えていいだろう。

プロデューサーは、自分を(少なくとも、自分の掲げるビジョンを)受容してくれるメンバーと、堂々と組んだほうが成功する。
もちろん、相手として選ばれるメンバーは、プロデューサーをただ受容するだけではなく、プロデュースをカタチにするために、何らかの役割を果たせる能力がなくてはいけない。しかし、チーム成功の鍵を握るプロデューサーが最大限の能力を発揮するために貢献できるなら、あるいは、その人の自己愛を満たしてあげ、やる気を全開にするサポートができるとしたら、それ自体が非常に重要な役割遂行となる。

プロデュースは、自分だけでなく、目的を共有する仲間がともに行動してくれることで、はじめてカタチになっていく。
自分の構想を聞いた第三者が、自分の思惑通り賛同してくれるかどうかは、実際にアプローチして直接確かめるまではわからない。
どんなすばらしい構想も、共感してほしい相手が、必ず共感してくれる保証はない。所詮、思考は自分の頭のなかにある個人的な世界であり、シミュレーションは自分で勝手につくりあげた虚構の物語にすぎない。
しかし、魅力的な構想には人を動かす力がある。また、どうしてもやりたいという熱い気持ちは、やはり人を動かす力を持っている。
共感して高いモチベーションを持って関わってくれる人は、どこかにいる。
プロデュースには、構想を実現するために手を結ぶ人々が、プロデューサーの周りに集まってくるときがくる。すばらしい力を持った想定外の協力者が現れることも十分にありうる。
チームができれば、実行のパワーは何倍にも何十倍にも増える。
これは、本当にダイナミックな、目にみえる転換である。
この転換をつくりだすために、プロデューサーは、魅力的なビジョンを掲げ、どんな未来を目指すかを示す。
そして、チームをつくるべく、動くのだ。

チームは、一人ではできないことを可能にする。
「プレゼンがうまくなる」という個人的なチャレンジですら、自分のプレゼンをみて、いいアドバイスをしてくれる人がいるだけで、成果はまったく変わってくる。
プレゼンのやり方自体を指導してくれたり、問題意識のブラッシュアップをするためにディスカッション相手になってくれたり、企画内容そのもの、プレゼンの構成を一緒に考えてくれたり、プレゼンツールのつくり方、プレゼンの際の服装、使用する道具、プレゼンのストーリーに盛り込むネタの仕込みをアドバイスしてくれたりする人がいれば、プレゼン能力は、間違いなく格段にアップする。
誰かに協力してもらうことによって、一人でがんばっていても到底できなかったことが短時間で実現可能になるのだ。
やりたいことの種類によっては、短時間でやらないと実現そのものが不可能になる場合もある。だまっていれば自分の考えていることと同じことを先にやられて、あとからやる意味がなくなってしまうこともある。
しかし、チームでやれば、同じことを早くカタチにできる。
自分にはできないことをやれる能力のある人たちと組めれば、自分の力の限界をはるかに超越したすごいことも実現可能になる。
金もなく人もいないところからスタートするベンチャービジネスの創業者は、なんでも自分でやる覚悟が必要だ、とよくいわれる。
実際に、創業者は多くのことを一人でやっている。だが、一人ですべてをやることはできないし、その必要もない。
たとえば、シルバー世代に優しいファストフードのチェーンを店舗展開しようという創業者にとって、一人でできることは、はじめから限定される。
メニューの開発や、店舗のイメージを自分でつくれたとしても、実際に店をつくり、食材を仕入れ、調理し、客を連れてくるための宣伝活動をし、経理業務をし、アルバイト店員を雇い、教育し、勤務時間のシフトを組んでいくというところまで、たとえ最初の一店舗目であっても、一人では難しい。
自分が掲げたビジョンには賛同してくれたスタッフたちに、さまざまな役割を担ってもらわなくてはスタートを切ることはできない。
サンドイッチをつくるのが非常に早くてうまい調理担当者がいれば、プロジェクトは大きく前進する。客集めに才能を発揮するスタッフがいれば、大きく前進する。税理士事務所をやっている友人が「しょうがないなあ、儲かるまでは安い報酬でやってやるからがんばれよ」と経理業務を請け負ってくれれば、また前進する。
だから、チームをつくるのだ。

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プロデュースには、構想が実現に向かってはっきりと動き出す決定的瞬間がある。
それは、魅力的なビジョンの実現に向かって活動する「チーム」ができたときだ。
プロデュースは、個人が、自分のやりたいことを実現したいと思わなければスタートしない。
だが、プロデュースには、プロデュースが自分一人のものではなくなったときに、はじめて実現に向けて大きく動きだすという特性がある。
協力者が登場することによって、発案者が持っている潜在的なエネルギーが、想定を超えた大きなものになることは少なくない。
発案者と協力者の関係が化学反応を起こして、「1+1」が3になったり、5になったり、10になったりすることもある。
協力者の持っている技術やノウハウ、あるいは人脈が、発案者が長年解決できずにいた問題を一瞬のうちに解決してしまうということも起きる。
たった一人の協力者の存在が、実現への道を大きく開いていく可能性は常にある。
これは、ベンチャービジネスの起業や、社内の変革プロジェクト、あるいは映画製作やイベントプロデュースといった、多くの人の関わりがはじめから予測されるものだけにあてはまるものではない。
たとえば、自分自身が営業マンとして新しい販売チャネルを開拓し、販売実績を大きく拡大して、誰からも一目置かれる実績をつくりたいというプロデュース。
水泳選手である自分がオリンピックでメダルをとれる一流選手になるというプロデュース。
こういった、自分のキャリアをプロデュースする場合にもあてはまる。

自分自身のプロデュースであっても、自分のやりたいことを共有してサポートしてくれる人とチームをつくるということは、プロデュースの一つの基本型である。
これは、サポートしてくれる相手にとっても、自分のキャリアを拓く一つのプロデュースになる。
営業マネジャーにとって、優秀な営業マンを育てることは、自分自身のキャリアになる。また、新しい販売チャネルを部下が開拓すれば、それは部門の営業実績になる。すなわち、営業マネジャーとしての実績になる。
やりたいことが会社にとってインパクトが大きい場合は、事業部長クラスが事業部としての新しい動きをぜひとも形にしたいと支援してくれる可能性もある。
あるいは、社外のプロフェッショナルなビジネスコーチが個人的に契約してサポートしてくれたり、コンサルタントが、会社の営業開発プロジェクトの一環としてサポートしてくれることも考えられる。
社外のブレーンも、社内外で影響力の高まりそうな営業マンのキャリア創造のサポートは、非常に高いモチベーションでやってくれるはずだ。

こう考えると、自分個人の営業実績を創造してプロとしてキャリアを拓きたいというキャリア・プロデュースも、自分だけのものではなくなる。
サポートの力によって、実現可能性は大きく高まるのである。

現状と実現したい未来の間に大きなギャップがあっても、描いた未来の実現を信じ、やる気になった瞬間に、何かが大きく変わる。
本田技研の創業者、本田宗一郎氏は、まだ会社が浜松にある社員二十人程度の町工場に過ぎなかった頃から、「世界一のバイクメーカーになる」とみかん箱に乗って毎朝朝礼で宣言し、啓蒙しつづけていたという。
彼の話すビジョンは、当時の「会社の現状」とは大きなギャップがあった。
しかし、ビジョンの実現を信じる人たちは、ビジョンに向かってエネルギーを燃やしつづける。
はじめは、実現を信じられない人もいる。
だが、現状とビジョンの間に大きなギャップがあっても、少しずつでも新しい成果が生まれていくと、ビジョンの実現を信じる人は増える。
会社の規模が拡大し、社会の評価が高まり、バイクレースに参戦して好成績をおさめるようになると、「世界一のバイクメーカーになる」というビジョンに向かって前進しているという実感が共有されていく。
信じて仕事をすることはワクワクすることであり、そうすることが楽しいから、はじめから信じてやってみようという人もいる。
だが、そうではない人も、目にみえるシンボリックな成果が生まれると、考えは変わる。
徐々にビジョンを信じる人は増え、すでに信じていた人はさらに確信を深める。より多くのエネルギーがビジョン実現のために集まるようになる。
こうして、ビジョンはより現実的なものになっていく。
ビジョンは、プロデュースを構想する本人自身をその気にさせ、さまざまな人を巻き込み、プロデュースを実現していくエンジンとなる。
ビジョンについて理解することは、プロデュースの実現可能性を高めるための非常に重要な鍵なのである。

ビジョンとは何か

ビジョンとは、「現状から飛躍しているが、実現を信じることのできる未来像」である。「思い」と「ビジョン」の間に大きな差はない。
個人の思いに共感が集まり、「私もその思いの実現を応援したい」という人が多数現れてきたとき、「思い」より「ビジョン」のほうが言葉としてふさわしいかもしれない、という程度の違いである。
ただし、ビジョンは、これから未来に向かって「これを実現したい」、あるいは「こういう状況が生まれてほしい」という思いであって、過去にあったことを「ああすればよかった」という思いではない。
ビジョンの発生源となる人間心理は二通りある。
一つは、「何かを成し遂げたい」「誰かのようになりたい」という前向きな夢や憧れであり、もう一つは、「もうこんな状況はいやだ」「何とか脱却しないと大変なことになる」という現状に対するアンチテーゼである。
脱却したい現状と前向きな夢や憧れが二つセットになっていることもある。
ビジョンは、現状をただ否定するだけでは生まれない。「いまの状況から逃れたい」という思いから一歩進んで、「どういう未来を実現したい」というイメージに発展することでビジョンは生まれる。

ビジョンという言葉の歴史

1980年代後半には、すでに企業経営の現場では「目標」とは違う「ビジョン」が組織変革や開発創造のために有効だという認識が生まれていた。
「ビジョン」という言葉がタイトルに含まれた書籍も出版された。しかし、肝心のビジョンの定義について一言も触れられていなかったり、ビジョンの意味を正しくとらえていないものが非常に多かった。政府の関係機関が発行する報告書に記された「二十一世紀ビジョン」の類も、ほとんどが二十一世紀に向けての「大まかな計画」という意味で使われていたといっていい。
いまでは、ビジョンはポピュラーな言葉になっているが、1990年代後半から急速に浸透してきたのである。
現在では、集団のマネジメントをうまく行うためにビジョンという概念が頻繁に使われるようになり、ビジョンには格好のいい説明がつけられるようになっている。
マネジメントの世界では、ビジョンは共有するためのものという前提で使われている。
また、公共性を持つべきビジョンには、内容だけでなく表現も魅力的で伝わりやすく論理的で矛盾もないという条件が要求されるようになってきた。
ビジョンは未来のイメージであり、それも望ましい未来のイメージなのだと、いまでは多くの人が認識するようになった。

一点ではなく方向性を示す

ビジョンは、目指すべきゴールのイメージだと考えている人も少なくないようだ。
これはおおむね正しいが、ビジョンは単にゴールのイメージではなく、もっと総合的なものである。
たとえば、「売上3,000億円を目指す」とか、「彼女と結婚する」という明確な一点ではなく、「世界中のユーザーから、一生つきあいたいと思われるカメラメーカーになる」とか、「彼女と一緒に、いつも笑顔があって癒される家庭をつくりたい」というように「未来の状況」を示すのがビジョンである。
ビジョンが実現するとどういう物語が展開するかというイメージが、ビジョンからふくらんでいくというのが、ビジョンの大きな特徴だ。
ビジョンを読んだり、聞いたりしたときに、ビジョン実現に至るまで、そしてビジョン実現後にどんな物語が生まれ、「どんな登場人物がどんな思いで行動するか」「どんな障害が立ちはだかり、どうやって乗り越えるか」「どんな出会いが生まれるか」「どんな感動があるか」「ビジョン実現は周囲にどんな影響を及ぼしていくのか」といったイメージが湧きやすいのがビジョンである。
ビジョンを発信する立場からみると、ビジョンを描く際には、未来に向けたシミュレーションや、イメージトレーニングを何度も繰り返して、そうした物語の展開が湧いてくるようなものにしているといえる。
それは、頭の中で自分の思いを確認し、ふくらまし、見直しながら修正したり強化したりし、自分の発想を魅力的で現実感のあるものへと、どんどん磨きあげていくという思考の作業にほかならない。

行動を起こす思考をつくる

ビジョンが魅力的で、それを実現したいと願い、しかも実現可能だと信じられるようになると、人は必ず動きはじめる。
ビジョンは行動を起こす思考をつくるのである。
しかも、この思考は、共感者を集めるのに非常に役立つ。
ビジョンを持っている人は、必ずそれを人に話すときがくる。
共感してくれる相手と出会えば、その相手が一緒にビジョン実現への戦略を考えてくれることもある。アイディアもくれる。情報もくれる。人を紹介してくれる。自分が一緒にやろうといってくれることもある。
ビジョンを話しはじめると、それだけで共感してくれる人と出会う可能性は急速に高まる。ビジョンを話すたび、人からさまざまな反応が返ってくる。自分のビジョンがどのくらい人に支持されるものなのかも、実感的にわかってくる。
こういうプロセスのなかで、ビジョンの表現も、ビジョンを伝えるときの迫力も磨かれていく。
ビジョンをプレゼンする場数を踏むことによって、熱い思いが人の心を動かすようになっていくのである。
実際にプレゼンした場数ではなく、プレゼン場面を想定して、頭のなかで何度も何度も繰り返しビジョンを表現してみる回数も重要である。こうした思考のシミュレーション作業は、アスリートのイメージトレーニングと同じように、「本番」で非常に役に立つ。
ビジョンを語りはじめると、周囲の人々の間には、自分がビジョンに向かって行動をはじめていくのだろうという共通認識が広がっていく。
それは、自分に対するプレッシャーとなる。だが、このプレッシャーはワクワクする感覚をともなったプレッシャーだといっていい。
こうして、自分の頭のなかも、周囲の環境も、ビジョンに向けて動きはじめ、いい意味で「逃げ道」がなくなっていく。
だから、ビジョンは行動を起こす基になるのである。

プロデュースは、ビジョンがあるからはじまる。
魅力的なビジョンは、ビジョンを考えた自分自身のモチベーションの源泉となる。人を動かす力にもなる。そして、突破口を開くアイディアが生まれる基にもなる。
魅力的なビジョンは、プロデュースによって必須なのだ。

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だれでも、一番リスクの少ない選択をしたいと思う。
そのために必要な情報をたくさん集め、できるだけ合理的で、だれもが賛成してくれるような選択肢を選びたいと考えがちだ。
じつは、この一見まっとうな考え方が、不安を増幅していることに気づいていない人は多い。ここにリスク管理の逆説がある。

いまの時代は、いくつかの選択肢の中から自分がいいと思うものをじっくり選ぼう、という姿勢でいると行き詰まる。選択肢が急に減ってしまったり、これを選べば、この先ずっと大丈夫だと思って選んだはずなのに、それがガラガラと崩れてしまうということが起きるからだ。
人から与えられたものを選ぶことで安心していてはいけない。十五年前ならいい選択肢だったが、今日はもうジリ貧の選択肢でしかないということが、しばしばあるからだ。

ではこの時代に、自分の夢を実現し幸せになるためには、何を選択しどんな行動をすべきなのだろうか?

目次

  1. いまの時代に必要なのは「プロデュース能力」
  2. 夢が実現するプロデュースの法則
  3. プロデューサーの「小さな行動」と4つの目的

いまの時代に必要なのは「プロデュース能力」

そんなとき大事なのは「プロデュース能力」だ。自分で新しいものをつくり、変えていく。仕事でも人生でも、何通りもの選択肢を自分でつくるのだ。
いま、それをする人は一目置かれる。応援してくれる人が必ず現れる。抵抗や妨害はあると思ったほうがいい。新しいことをしかけるときは、そんなものだ。だが、現状じゃダメなことはみんなわかっているから、粘れば結局は実現できる可能性が、十年前より明らかに増大している。いま、かりに自分からはそういう行動を起こせなくても、心の中でひそかに、プロデュース能力をもった人の登場を待っている人は多い。
自分の中に答えを探す。そして、やってみる。抵抗があっても、すぐには諦めない。どうしてもダメなら、一回「保留」にして時を待つ。または、次の機会を考えて、また別のことをやってみる。
じつは、いまこの考え方が、一番リスクが少ない。自分がいったい何者なのかを知ることは、ほんとうに大事なテーマになった。
何ができるのか。何をやりたいのか。何をやってきたか。人からどう思われているのか。有形無形のどんな財産を自分はもっているのか。自分自身についてしっかり探究して、これらを自己確認しておくことが非常に意味があるのである。自分のやりたいことを追求する姿勢が未来を拓くのだから、状況は必ず自分にとって楽しいものとなる。

自分の未来を「プロデュース」するためには、自分のやりたいことから発想する習慣が大事だ。もっともそれだけではダメで、人に対して、どんな貢献ができるかという視点を忘れない。さらに、助けてくれる人、相談相手、実現のために最前線で手伝ってくれる人を見つけて、その気になってもらうことも必要だ。

夢が実現するプロデュースの法則

プロデュースは「やりたいこと」がなければ、はじまらない。
しかし、「やりたいこと」が周囲に影響することであればあるほど、「自分がやりたい」だけでは実現しにくい。
プロデュースには、「個人のやりたいことは、別の人のやりたいことと重なったとき、大きな力を得て実現に向かって前進する」という法則がある。
プロデュースは、共感者、支援者、そしてともに行動してくれる仲間が登場して、小規模でも強力で心強い行動態勢ができるかどうかが実現への鍵になる。
やりたいことを実現するために、自分一人で発想をふくらませたり、悩んだり、情報を集めていろいろなことを確かめたりするというプロセスは必要である。
だが、どこかの段階で、やりたいことへの共感者が現れ、一つのビジョンを掲げて活動するチームができたとき、プロデュースは実現に向けて大きく動き出す。
どうやってやりたいことを実現するチームをつくるか。
それが、プロデュースをカタチにするための行動の鍵だ。

プロデュースというと、さまざまな能力を持った人間たちを動かして世間をあっといわせるような何かをすることだというイメージを持つ人も少なくないだろう。
夢を実現させるため、変革を起こすためには行動を起こさなくてはいけない。
しかし、いきなり、周囲をあっと驚かせる行動に出たり、すごい宣言をしなくてはいけないわけではない。
動いてほしい人たちを動かすためには、それなりの「仕込み」が必要だ。
自分自身のやる気が高まっていくプロセスをしっかりつくることも必要である。
実現したいというモチベーションが高まり、自信を持ってプレゼンできるだけのバックグラウンドが自分のなかにできていなくては、人を説得する迫力が出ない。仲間になってほしい人、支援してほしい人を巻き込めるロジックもほしい。

プロデューサーの「小さな行動」と4つの目的

プロデュースには、周囲から明らかに行動をはじめているとみえる前にしておかなくてはならない、目立たないが重要な行動がある。
それが、プロデューサーの「小さな行動」だ。
「小さな行動」とは、自分自身の判断で実施できる広い意味でのリサーチ活動である。
リサーチといっても調査・情報収集だけではない。実験・シミュレーション、広報、根回し、人脈づくり、支援者探し、チームメンバー候補探し、ビジョン・戦略づくりなどを含む。
探りを入れたり、新しくわかった情報をもとに考え直したり、説得したい人にアプローチするためのツールをつくったり、プロデュースを大きく実現に向けて進めていく動きを起こす前の仕込み(準備)は、すべて「小さな行動」である。

プロデューサーの「小さな行動」とは、具体的には次のようなものだ。
自分の構想をプレゼンして、相手にどのくらい共感されるかを確認したり、ディスカッションしながらアイディアをもらったりする。
どうすればやりたいことができるのか、そのヒントになる情報を調べる。
自分でさまざまな実験的な行動をして、「疑似体験」をもとに「本番」を想定した準備をする。
多くの人にイメージが湧くような見本となるものをつくる。
自分のやりたいことが人々にどういう役に立つのかを考え、関係する人々にとっても魅力を感じられるビジョンをつくる。
相手に話をする際に使うシートをつくったり、プレゼンに必要な道具をそろえたりする。

「小さな行動」の目的は次の四つである。

  1. 生の情報を収集する
  2. 支援者・共感者をつくる
  3. より良い未来仮説をつくる
  4. 自分のモチベーションを高める

プロデュースの成功は、チームをつくる以前に、どれだけ有効な「小さな行動」ができるかにかかっているといっていい。
「小さな行動」は、プロデュースの方法をより具体的に考えたり、組むべき相手を想定したり、プロデュースのさまざまな場面で必要になるプレゼンの質を高めたりすることを可能にする。
プロデューサーは、構想の段階から「小さな行動」をたくさんしている。
小さな行動によって、プロデュースの構想は磨かれていく。
実際に動くことによって、プロデュースに必要な情報が得られ、見えなかった支援者、共感者が見えてくる。人脈もできる。実行チームのイメージも湧いてくる。
それによって自信が生まれる。足りない部分も見えてくる。
ディスカッションしたり、自分の考えをプレゼンしたり、相手の考えをヒアリングしたりする過程で、自分の考えがどれだけ通用するものかがわかってくることは少なくない。人から、アイディアやアドバイスをもらうこともできる。
さまざまな貴重な生情報が得られるのも、こうした「小さな行動」をするからである。
「小さな行動」をするほど、より現実的で具体的で魅力的な実現までのイメージを持つことができるようになる。
小さな行動は、思考を整理するためにも大変役立つ。
未来仮説をつくるには情報が必要である。仮説を検証し、さらにいい仮説にするためにも情報が必要である。
とくに、自分の目や耳や肌で直接確かめたり感じたりして集めた情報が、非常に役立つ。
自分だけが知っている生情報があるほど、ワクワクする未来への物語をつくりやすい。それが、自分もモチベーションを高めるもとになる。