自分の蝶を放て!

チームメンバーはもっとも熱きサポーター






人は誰も、自分が肯定されたとき、自己愛が満たされたときに、エネルギーを出せる。
どうしてもやりたいことがあるとき、理屈ではうまくいえないけれど「やるべきだ」ということがあるというとき、「そんなの無理だよ」「いっていることがよくわからないよ」「俺はやる気がしないな」などといわれてしまうと、モチベーションは下がってしまう。いわれた相手が、身近な人、頼りにしている人なら、なおさらだ。
自分のやる気を維持するために、他人の肯定的な反応を必要とするのが人間というものなのである。
新しいことに挑戦しようとするときは、特にこの傾向が強い。
プロデュースという、説明が難しく、しかも不確実なことをやろうとするときは、ただでさえ、理解してくれない人がたくさんいるのがあたりまえだ。
自分の意欲を受けとめてくれ、発想を肯定してくれる人との心理的な交流は、非常に大きな心の支えになる。
いくら自分のビジョンや戦略に自信を持っていたとしても、構想を現実化していくときに、反発を受けたり、たたかれたり、妨害されたりすれば、気持ちが揺れるのが人間である。
新しいことを仕掛けるときには、必ず壁があるものなのだ。
そのときに、「あなたは正しい、あなたならできる、私は信じる、応援する、一緒にやっていこう」というメッセージを送ってくれる人が身近にいることによって、はじめて前に進んでいける、という部分が多かれ少なかれ人間にはあるのである。
乳幼児精神医学の権威ロバート・エムディは、子供がはじめて何かに取り組むときに、やり方を教えてくれる人、見守ってくれる人がいて、うまく行ったときに喜んだり褒めてくれたりすると「やる気」を起こすという。
これは、大人になっても変わらない。
新しいことに踏み出そうとするとき、人間は、かつて自分が子供の頃何かをやろうとしたときに母親や先生が温かい目で見守ってくれたように、自分を肯定してくれる誰かの応援を心理的に強く必要とする生き物なのである。
自分自身を信じることも大事だし、抵抗や障害に屈しない強さも大事だ。だが、プロデュースをカタチにするには、自分を肯定してくれる人のサポートが非常に重要なのである。
目的を共有するチームのなかに、互いに相手を肯定しあえる関係、自己愛を満たしあえる関係があれば、実行力は高まる。
新しいことを仕掛ける企業の経営者の周囲には、誰か必ず、経営者にとっての母親役を果たしている人物がついているように思える。その人物は、何らかの実務的役割を果たしながらも、経営者に対して、安心と癒しと元気づけをする役割も果たしている。
ベンチャー企業なら、必ずそうした役割の相棒がいるといっていい。
創業者は、間違いなくやる気に満ちているが、不安も抱えている。無理もしている。表では、自分の夢とビジネスの可能性について、元気いっぱいにあちこちでプレゼンしていたとしても、一人になったときは不安と寂しさで倒れそうになっているという人は少なくない。とくに多額の資金を借りたり、出資してもらって創業する際は、いくら自信家でも、本当にこれで大丈夫なのか、仲間たちは本当に自分を見捨てず手伝ってくれるのか、不安なものだ。
これは社内ベンチャーでも、そう変わらない。
新しいことをはじめる人はみな、誰かの支えを欲している。
その「誰か」とは、共同経営者という場合もあれば、腹心の部下という場合もある。秘書という場合もありうる。また、契約コンサルタントという場合もありうる。あるいは、家族かもしれない。





シンガーソングライターであり音楽プロデューサーのスガシカオ氏は、新しい曲が浮かび、これはいけると思うと、深夜でもバンドのスタッフたちを呼びだすという。
スタッフからみれば明らかに迷惑な話だが、自分のなかで急速に曲が浮かんだホットな段階で気心の知れたスタッフたちに聞いてもらうことで曲のアイディアが作品として形になっていき、自信を持って世に出せるという気持ちが高まっていくのだという。
スタッフたちは、呼び出されるたびに、「またか」と思いながらも、スガシカオ氏に必要なことだと受けとめてスタジオに集まり、曲の完成に協力する。
もちろん、その曲は、作詞作曲はスガシカオ氏だが、みんなで音をつくり演奏する曲になる。そうやって、スガシカオ氏は、これはと思う曲ができるたびに、慈母の役を果たしてくれるスタッフの愛情を確認しながら、「この曲はいける。やろう!」というモチベーションを高めているといえる。
そして、実際それが、前面に出て歌い、メディアで発信するスガシカオ氏のパワーを高め、結局はチームとしてのパワーを高め、新曲の成功を生みだしていると考えていいだろう。





プロデューサーは、自分を(少なくとも、自分の掲げるビジョンを)受容してくれるメンバーと、堂々と組んだほうが成功する。
もちろん、相手として選ばれるメンバーは、プロデューサーをただ受容するだけではなく、プロデュースをカタチにするために、何らかの役割を果たせる能力がなくてはいけない。しかし、チーム成功の鍵を握るプロデューサーが最大限の能力を発揮するために貢献できるなら、あるいは、その人の自己愛を満たしてあげ、やる気を全開にするサポートができるとしたら、それ自体が非常に重要な役割遂行となる。