自分の蝶を放て!

相手を惹きつけ、説得力を高めるプレゼンテーションのコツ






なぜそれをやりたいのかというWHYを、自分独自の体験をもとに語ることができれば、プレゼンテーションは魅力的なものになる。





実際に体験したからこそ持ちたえた自分固有の動機は、説得力の源泉になるのである。とくに、社会(ひろく社会という場合もあれば、身近な特定の人という場合もある)にたいしてもった何らかの問題意識がベースになっているとき、説得力は増す。





たとえば、こういうことである。
東北地方に、人口が減少をつづける過疎の村がある。
自然は美しく、村の人々の気質も古きよき日本のものを残している。村の若者たちはみな、やる気を持っているが、たいした産業はなく、結局は都会に出ていって戻ってくる人が少ないという現象がつづいている。そこには小規模のひなびた温泉があり、米とリンゴがとれ、地元の人にしか知られていない、おいしい地酒がある。
休暇をとっての一人旅の途中でその村を訪れた都会で働く若者がいた。若者は村の人たちに世話になり、その村の素朴さに感動した。
村は、たしかに僻地にある。いまは全くの無名だ。しかし、このすばらしさをたくさんの人が知ることができればどうなるだろうか。少なくとも、村でつくる地酒は、何らかのプロモーションをした上で、東京の気のきいた小料理屋に出すぐらいのことはできるかもしれない。儲かるかどうかはわからないが、村の知名度を高めるために多少の役割は果たせるだろう。村人たちに自慢のネタを、ひとつ提供するくらいにはなるはずだ。温泉に手を入れれば、観光地としての可能性もでてくるのではないか。都会の子供たちを村に集めて、サバイバル教室をひらくことは、すぐにでも可能だろう。そういう企画があれば、インターネットを使って情報の交流はもちろん、商品のやりとり、人の交流をおこすことが十分できるのではないだろうか。
若者は、そのように考えた。





漠然とITに関する仕事をやりたいと思って通信会社に入り、三年が過ぎていた。IT技術を磨いていきたいとは思っても、この先、何のためにどんな仕事をしたいかという明確な目標があったわけではなかった。だが、こういう村をITをつかって活性化するような仕事ができたら素晴らしいだろうと思った。具体的なイメージも湧いてきた。その思いが、ITを追求する自分の動機として、すっぽりと自分のなかに組み込まれたわけである。
若者は、IT関連の仕事をすること自体が、自分にとって、かならずしも最終的なゴールではないのかも知れないとも思えてきた。
しかし、少なくとも若者は、この時点で、なぜネットワーク技術者になりたいのか、仕事を通してどういう未来を実現したいと思っているのかについて、自分だけがもつ独自の視点と問題意識をしめして語ることができる。
たとえ、仮説を提示しているに過ぎないとしても、こうしたプレゼンテーションが、相手をひきつける説得力をもつことは当然だろう。





何故そのテーマなのか、何故そういうビジョンなのかという理由は、自分の歴史や、歴史のなかで形成されたり確認された自分の個性と結びつけて整理してはじめて、自分自身も相手も、腑に落ちるように納得できるものなのである。