コンサルタントの事件簿

熱クー(4) フィールドワーク

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 熱クー第4弾は、フィールドワークが、熱く語るための基になる「自分のオンリーワンなネタ」をつくる、という話しです。

 熱く語るためには、「私はこうなんです」と、しっかり言えることが大事です。たとえそれが、世のため人のために何かをするという話であっても。
 「私」が軸になった話が入っていないと、会社の未来を左右する新規事業や変革の提案でも迫力がでませんし、人の心を動かせません。
 さまざまなビジネスプラン作成のお手伝いをしてきましたが、この点を勘違いしている人は、たいへん多いです。
 みんなのための話だからと自分を引っ込めずに、自分だからこういうことを考え、こういうことをやりたい、と語るほど、逆に共感が集まるのですが、多くの方が、「じっさいにやってみるまで、それを信じられなかった」とおっしゃいます。

 「私はこうなんです」としっかり語るために、「フィールドワーク」から得たナマの体験や情報は、たいへん貴重なネタになります。

 今の時代は、インターネットやSNSなどの普及にともない、いい情報がスピーディーに広まるようになりました。つまり、人々が同じ情報を共有することにおいては、とてもうまくいっているわけです。

 しかし、裏を返せば、“知っているか知らないか”の違いだけで、個々人の差がなくなってきているともいえます。
 そんな時代にこそ、その人だけが知っている「オンリーワンな情報」が元になった発想が、壁を越える力になります。

 スピーチでも、説得したい相手を前に話す場面においても、いかにオリジナルな話ができるかということに価値が出てきます。オリジナルな要素のない話にインパクトはありません。

 オリジナルな要素は、自分自身の体験や、自分の強い想いからでてきます。
 オリジナルな要素が欲しければ、何よりも、「テーマを持って歩く」が鍵。
 テーマを追究するために、何か役に立つことがないかと考え、自分の目で確かめに現場に行ったり、人に会って話を聞いたり、いい資料をあの手この手で探す。
 それが「フィールドワーク」です。

 フィールドワークは誰にでもできます。
 人は、人生を歩む過程で、いろんなことを体験するチャンスがあります。テーマさえ持っていれば、自分の人生は、すべからくフィールドワークになるとも言えるでしょう。

 フィールドワークについて考えるとき、頭に浮かぶ作家がいます。吉村昭さんです。
 吉村昭さんの作品のひとつに『三陸海岸大津波』(文春文庫)という本があります。これは、吉村さんが、縁ができて三陸の町に通っているうちに、過去に起きた大津波の記録が埋もれてしまっていると知り、丹念に、現地で証言者を訪ね歩き、残された資料を捜し歩き、まとめた本です。191ページと読みやすいボリュームにまとめられています。
 いまあらためてこの本を読むと、ほんとうに驚きます。
 津波が起きる危険性は常にあり、そのとき、どうしたいいかを浮かび上がらせているのですが、文字どおり、3.11とダブります。

 多くの人がこの本を読んでいたなら……と思わざるをえません。
 自分のテーマを大事にし、フィールドワークを続けながら、いい仕事をたくさん残された吉村昭さんの人生は、ほんとうにすばらしい人生だったと思います。
 吉村さんの文体は淡々として静かですが、読むにつれ、じわじわと心を揺さぶられます。「ここに、こんな真実があるのだ、と読むものに感じさせる力」を感じます。
 吉村さんの硬質で美しい文体は、自分が見て、聴いて、調べて、そして、感じ、深く考え、その結果、かならず真実が見えてくるという余裕の表れなのではないかと、私は密かに思っています。
 ちなみに、私の一押しは、役所広司主演で映画化され、カンヌ国際映画際でパルム・ドールを受賞した『うなぎ』(監督・脚本とも今村昌平)の原作も所蔵されている短編集『海馬(トド)』です。

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