自分の蝶を放て!

テーマを持って生きることで思わぬ未来が開けた話






自分のテーマをもって生きるのは気持ちがいいことだ。
いまの社会は、ものすごい量の情報が飛び交っている。けれど、自分が追いかけたいテーマがあると、それが切り口になって、情報が取捨選択される。頭の中もスッキリ整理される。
自分のテーマについて、こんなことをやりたいのだと人に話す機会が多ければ、必ず、いい情報をくれる人が出てくる。人脈もできる。
そうして、知らず知らずのうちに、自分の世界が自分の周りに広がっていくのだ。
毎日、東京都心にある会社に通勤するTさんは、いつか田舎で暮らしながら都会の企業を相手に仕事をしたいと思っている。
彼はIT技術が得意だ。社内でも「ネットワーク分野についてはあいつに聞け」と言われる存在になっている。
しかし、ITは手段である。ITの専門家として仕事をしていきたいわけではない。どこに住んでいても、自分に仕事をくれる都会の企業に提供できる自分の価値は何かを、Tさんは考え続けてきた。同時に、自分が住むことになる田舎の町にも価値提供できる自分でありたいとも思う。
ウィークデーは忙しいサラリーマン生活をしながら、休日はワゴンに乗って日本中の風光明媚な田舎を楽しみながら回っている。しばしば、やり残した仕事を、朝日を見ながら海辺に停めたワゴンの中でしあげ、アウトプットを同僚たちに送ったりしている。
たくさんの田舎を自分の目で見て感じることがあった。
日本の田舎は沈滞している。観光地といわれるところも、街づくりの努力は中途半端で、やるべきことをやっていない。看板のかけ方もおかしいところが目についた。観光客にわかりにくい表示も非常に多い。逆にいえば、改善すればすぐによくなる点がたくさんある。
南東北の温泉地まで足を伸ばしたときのことだ。あるひなびた温泉宿の看板のつくり方が気に入らなくて、参考資料にしようと思ってその看板の写真を何枚も撮っていると、たまたま通りかかった宿の主人に呼びとめられた。
事情を話すと、宿に上がれといわれた。主人は、そうまでいうなら新しい看板のかけ方を提案してくれといった。Tさんは、そのまま三日間その宿に滞在し、温泉街の全体を見て回った。宿の主人が紹介してくれた別の宿の主人たちとも話をした。そして、一週間後に看板のラフスケッチと簡単な企画書をもって、ふたたびその温泉街まで出向いた。その温泉街が、観光客を迎えるために改善すべきと感じた点をまとめたレポートも持参した。
Tさんの提案を聞いて、看板を掛け替えようと、宿の主人はいった。Tさんは宿代をタダにしてもらったうえ三万円をもらった。しかも、そのレポートを読んだ宿の主人は、「今度、観光協会の役員会にでてくれないか」といった。
さらに宿の主人から、その気があるなら東京へ戻ったらこの人と会ってみてくれと、一枚の名刺を渡された。それは、大手旅行会社の営業企画部社員の名刺だった。
Tさんを見込んだその宿の主人は観光協会の役員で、温泉街の活性化を真剣に考えていた。
これも縁だな、とTさんは思った。
気がつけば、自分の目の前に思わぬ可能性が開けていた。