自分の蝶を放て!

ビジョンは未来予想図






ビジョンは、迷った自分を救ってくれる。
どんな方向に向かって進めばいいのかという明確なメッセージが、ビジョンにはあるからだ。
ビジョンとは、「現場からは飛躍しているが実現を信じることができる魅力的な未来像」をいう。
ビジョンのゴールイメージは明確だが、そこに到るプロセスはファジーでかまわない。途中でどんな道をたどってゴールにたどりついてもいい。
明確なビジョンを描いている人は、回り道を楽しめる。一見、やりたいこととずれたことをやらなくてはいけなくなったとしても、何とかして、ビジョン実現のために現状を変えたり、むしろ現状を一工夫して生かしたりすることで自分にしか歩けない自分の道をつくってしまえるからだ。
だから、不安よりも夢が生まれる。苦労しても、目の前が開けていくから元気が出る。
環境工学を学んで、人と環境に優しい住宅の「窓」を開発したいと思って住宅建材メーカーに入ったのに、「きみは話が上手だし好感度が高いから」と販売推進部に配属されてしまった女性技術者がいた。
同期の技術系出身者たちは、ほとんど商品開発や設計の担当となったのに、なぜ自分は違うのか。
配属先が決まったとき、彼女はがっくりきてしまった。
だが、営業マンと一緒にユーザーを訪問したり、現場に行って施工業者の人たちと話すとき、彼女の住宅建築に関する専門知識や問題意識は相手を驚かせた。彼女は、自分の疑問点をお客さんにぶつけ、いろいろな提案をした。話は盛り上がったし、ベテラン営業マンでもなかなか引き出せないような生の情報を得ることができた。仕事は俄然おもしろくなった。
おそらく、最初から商品開発担当になっていたら、これほど現場とお客さんの実情を知ることはできなかっただろう。
現状をありがたいと思い、いまだからできる活動をやろうと、一生懸命に、そして楽しんで販売推進担当の仕事をした。いっぽうで、いつも、自分が商品開発を担当したらこうしよう、ああしようという意識をもち続けた。
人と環境にやさしい住宅の部品をたくさん開発して、よのなかの暮らしを素敵にすることが彼女のビジョンだったからだ。
そして、ついに声がかかった。
入社して二年、商品開発担当に異動せよという辞令が下りたのだ。
彼女は、商品開発担当として、つぎつぎと新しい商品を開発した。みんなが彼女の発想や開発・設計能力に注目した。
販売推進担当としての彼女の経験は、単に商品を設計するだけではなく、プロデュースする能力を彼女自身にもたらしていた。商品を世に送り出すためには、設計者の意図だけではなく、製造や営業、住宅建築の現場での施工のやりやすさも大事なのである。社内の仕組みもよくしていきたいという思いも生まれていた。
商品開発担当として、幾つかのヒット商品を若手ながら生みだした彼女は、そのあと、ユーザーと販売会社を結ぶ新しい情報チャネルをつくって、商品開発と販売の両方につなげるという新事業のプロデュースに関わった。それから、また商品開発担当になった。
彼女の七年間は、おもしろい物語に満ちている。
これからまた、どうなるかわからない。
とにかく彼女は、自分のビジョンにむかって進んでいる。
ビジョンがあれば、途中で道草しても、道草に意味が生まれる。途中で失敗しても、それは糧になるのであって、挫折ではない。ビジョンがあれば、戦略が生まれてくる。いまが、輝いてくる。
だから、「まだまだこの程度じゃ自分のビジョンに到達できない。もっとやるぞ」という緊張感や危機感は生まれたとしても、不安で元気がなくなることはない。
それが、周りから見ると、「あのひとはタフで頑張りのきく人だ」ということになる。しかし、本人にしてみれば、やりたいことをやろうとしているだけだったりするのである。