自分の蝶を放て!

Episode 02|「自分の幸せ第一」のビジョンに切り替えたとき、人生の転機はうまくいく






Episode01では、「相手を幸せにするとはどういうことか」を考えました。 
相手の幸せを真剣に考えてきた人ほど、ある地点で、立ち止まることがあります。
「では、自分の幸せはどこにあるのだろうか」と。
今回は、自分の幸せを第一に考えたとき、ビジョンはどう変わり、人生の転機がどう動き出すのかを見ていきます。










定年間際の営業マンKさんの息子はプロスポーツ選手だ。
 息子の才能を見出したのは自分自身。息子の幼少期は、Kさん自身がコーチだった。だからこそ、Kさんは、息子の成長を一貫して最大限に応援してきた。
 それだけではない。息子が全国レベルの選手になっていくにつれ、Kさんは考えたことがあった。
「息子のプレーが多くの人に感動を与えられたら素晴らしい。それが、息子の成功につながるし、社会的な貢献にもなる」
 そのために、できることを何でもやってやろうと。
 これは、息子にとってはもちろん、Kさん自身にとっても、社会にとってもWIN-WINな、素晴らしいビジョンだと思えた。Kさんは30年間、このビジョンをずっと持ち続け、周囲のひとにも語り続けてきた。





 息子は多くの人に応援されてプロになった。現在はスポンサー企業との契約もあり、安定した生活を送れている。プロであるから、活躍し続ける限りは、という条件は付くのだが。
〈息子のプレーで多くの人に感動を与える〉
 Kさんにとって、この「素晴らしいビジョン」は息子を成功させ、自分自身を支えてきた憲法のようなものだった。
 だが、なぜか、かつてほど、Kさん自身が、そのビジョンにワクワクしなくなった。
 ある意味、このビジョンは、もう実現したといえるのではないか。
 はたして、これは、これからも有効なビジョンなのだろうか?
 それでも、Kさんには次のビジョンは見えなかった。





 いつの間にか、息子は30歳を過ぎ、Kさん自身は60歳になろうとしていた。
 プロスポーツ選手にとって、引退の日は必ずやってくる。息子にとっても、それは、すでに遠い先の話ではなくなっている。
 息子を支えるために、会社員として働き給料を得る。Kさんにとって、それは大きな意味のあることだった。
 しかし、Kさん自身にとっても、定年というある意味での引退の日は迫っている。定年後も働くかもしれない。だが、もう息子は立派に自立している。支援する必要はない。
 では、自分自身はこれからどうするのか。





 じつはKさん自身も、アマチュアとしてプレーを続けていた。そして、これからも、ずっと続けていきたいと思っていた。
 自分自身の幸せを優先させてはいけない。
 Kさんには、いつもその思いがあった。自分だけ、自分の息子だけ、では身勝手になってしまう。だからこそ、〈息子のプレーで、多くの人々に感動を与える〉でなくてはならなかった。
 しかし、本当にそうなのだろうか。
 ビジョンは、多くの人に幸せが波及していく未来イメージがあるからこそ、影響力が生まれ実現していくという側面が、たしかにある。
 だが、一人の人が、その人らしく幸せになっていく未来のイメージは、他の人々を幸せにしないのだろうか?
 そうではない。その人と、多くの人は、自分の事情はそれぞれ違っている。だが一人の人がその人らしく幸せになるイメージを嫌いな人は、じつはいないのだ。そのイメージが、素敵なイメージなら、共感し、応援する人は必ずいる。
 そんなふうになれば素敵だな、実現して欲しいな、応援したいな、という気持ちになること自体に喜びを感じ、幸せな気持ちにもなる。それが人間だ。





 Kさんは、30年間持ちつづけたビジョンを変更した。





〈いくつになっても、息子が相手をしてくれるレベルのプレーヤーであり続ける〉





 誰ともWIN-WINではない。社会に貢献できない自分勝手なビジョンかもしれない。
 だが、Kさん親子を知る人からみれば、それは最高に魅力的で応援したくなるビジョンだ。コートの上でラリーをしている映像が浮かんできてしまうのだ。
 なにより、Kさん自身が、今日から何をすればいいか、ものすごくイメージが湧いている。なにか世界が転換したように輝いて見えるようにもなった。そして、息子は、はじめて父親を応援できるビジョンが誕生したことをとても喜んでいる。