コンサルタントの事件簿

基本となる4つの能力






エンプロイアビリティの基本になるのは、次の4つの能力である。





  1. 専門能力
  2. 自己表現力
  3. 情報力
  4. 適応力




1の専門能力は、自分が何をもとに仕事をするかという基本のなかの基本で、これがなければエンプロイアビリティはうまれない。
特定の領域に関する知識のたしかさや、問題解決する際の創造性、論理性、人間関係能力もふくめた腕のたしかさは、高いエンプロイアビリティの基盤になる。経験・実績・キャリアも、専門能力があってはじめて、つくっていくことができるものだ。





2の自己表現力は、自分をプレゼンテーションする際の基本となる。
自分は何ができるのか。自分は何をやってきたか。何をやりたいか。あるいは、自分は何者であるか。
こうしたことについて、相手にとって必要十分な情報を魅力的に伝えられるかどうかは、雇い主を獲得できるかどうかの最大のポイントになる。
すばらしい専門能力があったとしても、それをうまく相手に伝えられなければ、雇われることはできない。すでに相手に相当知られているようなその業界の有名人であれば話は別だが、かりにそうだとしても、それは、それまでにかなりの自己表現をしてきた結果といえるだろう。
また、自分の仕事や能力について表現してみることによってはじめて、自分の能力がいかほどのものか、はっきりしていくという側面があることも見逃せないポイントだ。
表現し、それを受けとめて、よくも悪くも反応してくれる相手がいることで、自分の中身も磨かれていくのである。
自己表現の方法は、ひとつではない。相手に語るという方法もあれば、資料で見せるという方法もある。仕事で見せて第三者に語らせるという方法もある。自分で書いた本や開発した製品(作品)、成果をもたらしたプロジェクトも、自己表現と考えていい。それから、相手と対面するときの服装、表情、言葉づかい、にじみ出る雰囲気も自己表現である。
自己表現する内容は、仕事に限る必要はない。
訴えたいことが仕事の能力であっても、仕事以外に自分がこれまでやってきたこと、考えてきたことを表現して伝えることによって、自分の専門能力の背景や特長について、相手に豊かなイメージを湧かせて、トータルな理解を深めてもらうことができるからである。
若い頃からバイオリンを弾き、プロはだしの演奏をするほどのSEが転職するとき、音楽の世界と情報システムの世界に何らかの関係を持たせて自分を語れるとすれば、それは、相手にどんな仕事をする専門家なのかをイメージさせるもとになる。かりに、仕事と直接結びつくものがなかったとしても、優れたバイオリン奏者でもあるということが、人間としての幅を感じさせるだろう。
そういう意味で、自己表現力は、必然的に一人のひとの人間的魅力に直結していく。





3の情報力は、自分の能力が、自分がやりたい仕事に関連する業界・業種などの世界で、どれだけ評価されるものなのかについて知る能力のことである。
もし自分が転職するなら、どこにどのような会社と仕事があり、どのぐらいの処遇が得られるのか。あるいは、かりにフリーランスになったとき、自分に仕事をくれるクライアントがどこにいるか。報酬はどの程度なのか。また、自分の力で十分やっていくために、いま、何が足りないのか。何を磨いていけばさらに有利な状況をつくれるのか。
日ごろから、こういうことにたいして問題意識を持って仕事をしたり、人とつきあったりしていなければ、情報力は高まらない。
WEBで情報検索していくと、かなり生な情報でも得られるようにはなってきた。テストをするだけで、自分の「市場価値」を測定できるサービスもある。
だが、やはり、現実の世界で直接自分の肌と目でつかんだ実感がある情報をもっているほうが、ずっと強いのは言うまでもない。
人脈は、情報力の源である。
いい情報というのは、いつも職場でつきあっている人たちよりは、むしろ、社外からもたらされるものだ。
会社や業界、業種の枠を超えて、いい人づきあいをしている人はそれだけ、情報が集まる。また、ひとから「ウチに来ないか」とか「こういう話があるんだけど、やってみないか」という情報がもたらされる。当然、エンプロイアビリティは高まるのである。





4の適応力は、雇い主との間にあるギャップを埋めていく能力である。これは、転職にせよ、独立にせよ、新しい仕事をするときには非常に重要になる。
前職時代の実績を買われ、好条件で転職したとしても、新しい会社の戦術やカルチャーを理解してそれに合わせた行動をとれないと、チームのなかで浮いてしまうことになる。
人事採用担当者が見極めるのは、専門能力が高いかどうかだけでなく、ほんとうに自社のカルチャーに適応できる人材かどうかである。また、外部スタッフに対する発注権限をもつ人は、同じ条件と能力なら、できるだけ自社の流儀に合わせてくれる相手に仕事を頼みたいと思うものだ。
しかし、適応力は、ただ相手にあわせる能力ではない。
適応力は、一番大切なことを維持するために、その他の点で自分を柔軟に変えていくことをいとわず、いっぽうで、おたがい啓蒙しあって、もっともいい着地点を見いだす能力である。
契約条件、あるいは仕事に対するスタンスについて、自分と相手とのあいだでズレがあったとき、相手と話し合い、共通の落とし所を提案して合意を図るということができるかどうかは、仕事が成立するための大きなポイントになる。
転職の場合でも、独立自営業者になってクライアントを見つける場合でも、すべての条件が双方の希望と一致していることはまずないといっていい。
いつでも妥協すべきだと考える必要はない。
いい仕事をして、雇い主に成果を提供するためには、自分のもっている方法論のほうが有効な場合もありうる。いい提言ができる人に、仕事をお願いしたいと考える雇い主は少なくない。
妥協点を見いだせないなら、多くの場合、無理をして契約を結ぶ必要はない。
転職するなら、相手はいいところがひとつあればいい。独立して自営業者になる場合も、あらゆるクライアント候補の都合にあわせる必要はまったくない。自分の身体はひとつしかないのだし、常に自分が専門能力を発揮して質の高いアウトプットを提供できる状況をつくらなくては、明日がひらけないからである。