コンサルタントの事件簿

処遇をとるか、やりたい仕事をとるか






転職にせよ、独立にせよ、社内での異動や就業形態の変更にせよ、新しい状況に転換するときに、もっとも気になるのは「その後の収入」だろう。もっと言えば、いまより上がるのか下がるのかである。
転職や社内での異動なら、どういうポジションが与えられるかということも問題になる。
やりたい仕事ができて、納得できる処遇が得られれば言うことはない。しかし、そうではないときにどう考えればいいか。
人材マーケットには、能力やキャリアによる処遇の「相場」がある程度できあがっていることが多い。これは、いまいる組織のなかでも言えることである。
したがって、めざす処遇を得ることを第一に考えれば、マーケットニーズにあわせて自分を仕立て上げていく必要がでてくる。理想的な処遇を得るためには、ある程度、自分のやりたい仕事とずれがあっても、雇い主の要求にあわせて、新しい仕事を受け入れなくてはならないことも少なくない。
そのような適応力を発揮することも、エンプロイアビリティの要素である。
いっぽう、処遇に関しては柔軟に考え、場合によってはいまの経済的な生活水準や、肩書きの世間的ステータスが下がることを覚悟できるとすれば、それだけ、やりたい仕事ができる可能性は高まる。
これもまた、重要な適応力である。
処遇に関して柔軟になれるということは、単に仕事の場を確保しやすいというだけではないメリットがある。
やりたい仕事をやりつづけられれば、精神的にはいい状況をつくることができる。
また、やりたい仕事を追求できるほど、ひとつの分野で専門性を高めることができる。特定のテーマをもって仕事をしつづけるほど、情報も集まり知識も経験も増え、キャリアも積み重ねることができる。素晴らしい実績をあげれば、それはそのままエンプロイアビリティの向上につながる。
国内の大学やメーカーで研究開発にあたり、世界に通用する技術をうみだしたエンジニアたちが、海外から破格の報酬で引き抜かれていったのは、いいか悪いかは別にして、まさにそうした事例である。いったんSOHO自営業者として独立した後に、大手企業から好条件で業務提携のオファーをうけたり、事業部長、あるいは社長として就任を要請されるというのも、やりたい仕事を追求して、花開かせた結果といえるだろう。
長期的にエンプロイアビリティを向上させていくために、やりたい仕事を追求するというスタンスをとることは、きわめて有効なことである。
いかに実績をあげてきた専門能力の高い人材であっても、つねに、高給を保証してくれる会社を渡り歩くことができるとは限らない。ひとつの企業、ひとつの業界は、いつどのような再編が起きるかわからないのである。
逆に、どんな形態であっても、やりたい仕事をやりつづけることができる状況をつくりだすことができれば、将来へのリスクは軽減することができる。やりたい仕事をやる場を与えてくれる雇い主にたいして、責任を果たそうとするプロ意識も高まる。
やりたい仕事をやりつづけるためにエンプロイアビリティを磨こうとする発想は、二つの生き方を推し進めていくことにつながる。
ひとつは、自分らしい仕事を確立し、自立したプロフェッショナルとして、契約した雇い主にたいして、いい仕事を提供できるように、自分の能力を向上させていくという生き方。
もうひとつは、自分のやりたい仕事を柱にして、生活が成り立っているかぎりは、お金のために、自分にあわない仕事、やりたくない仕事をしないという生き方だ。