自分の蝶を放て!

「リスキリング」のために大切な2つのこと






自分のやるべきテーマを明確にしていくことは、エンプロイアビリティの第一歩である。
テーマが明確になれば、そこに資源とエネルギーを集中できる。情報も集まりやすくなる。実践の場も増える。
必然的に実績につながり、専門能力も高まる。
コンセプトワークも、フィールドワークも、ネットワークも、テーマが明確なほど効率よくできる。





テーマの設定はエンプロイアビリティの創造に大きく影響を及ぼすのである。





最近、「ジョブ型」の人事制度を取り入れる企業が増えている。「職務」を明確に規定して、その職務を遂行できる能力のある人をその職務につける、ということをわかりやすく実施しようということだ。グローバルなビジネスを展開している企業では、同一職務を各国共通の採用基準、評価基準で実施しやすいメリットがある。





職務に見合ったスキルをもっているか? 足りない部分があるなら、どう埋めていくか?
また、仮に職務自体が新しく生まれたものなら、その職務に就く人はみな新しいスキルを身につけなくてはいけない場合も出てくる。そしてそのケースは非常に多くなっているといえるだろう。たとえば、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を掲げてビジネスを転換していこうという動きが加速すれば、当然職務内容には新しい要素が加わっていくわけだ。





こうしたことから、新しい職務を果たすためにスキルを再構築していく「リスキリング」が必要になってきた。
自分のテーマ自体も再構築が必要になるかもしれない。





時代は大きく変わってしまったのだろうか?





じつはそんなことはない。
ジョブ型だ、リスキリングだ、といっても、エンプロイアビリティを創造していくという観点からみれば、やるべきことは変わらない。





自分のテーマを追究し、専門能力を磨いていくためには学習と訓練が必要になる。
逆に、学習と訓練が、自分が追究すべき新しいテーマが見つかるきっかけとなることもある。
学習だけでは足りない。訓練の要素、つまり、実際にやってみてその体験の中から自分なりの理解を深めて行くという要素が、プロフェッショナリティをつくりだす。
一言でいえば、説得力が変わる、ということである。
自分の軸をもって問題解決や創造の業務ができるということは、エンプロイアビリティに直結する。





これは変わらないことなのである。





リスキリングが必要は場面は増えるだろう。しかし、「スキル」という言葉のニュアンスから、まずは新しいことを学習すれば良い、と考えるのは危険だ。「訓練」の要素は必要なのである。
そして、自分なりに腹落ちして、現実の場面、実践で生かし、プロとして成果をあげるためには、自分のテーマを明確にして、追求していくことが大変重要なのである。





新しいジョブにつくためにリスキリングが必要になり、これまでと違う新しい知識を獲得しなくてはならないとしても、あせることはない。
むしろ、これまで自分がテーマとしてきたことを、どう新しい職務に生かせるかを整理することを大事にしたほうが良い。





自分のテーマを発見したり、深めていくという側面からみれば、学習と訓練は、キャリア仮説の設定などコンセプトワークに役立つ。
また、学習や訓練の機会は、共通の目標や志向を持つ人たちとの交流が生まれるもとになることが多く、ネットワークのきっかけとなる。
通学制のスクールや長期にわたる勉強会、短期でも人数の限定されているセミナーなどでは、参加者同士が、たがいにコミュニケーションをもつ場ができる。
単なる情報交換だけでなく、励ましあったり、競争したり、意気投合したりしながら受講者全体にシナジーが生まれることもある。
同じ時間を共有した者同士が、学習期間が終わった後も、引き続きコミュニケーションを取り合うということは少なくない。場合によっては、受講者同士だけでなく、講師や事務局担当者なども、その輪の中に入る。お互いが人脈となり、ネットワークになっていくのである。





学習と訓練は、フィールドワークをするための前提条件となる場合もある。
実際に仕事をする前に、何らかの「仕込み」が必要になることはもともと少なくない。
どうしても特定のシステムやソフトに習熟しておかなくては参加できないプロジェクトもある。ルールとして、いくつかの資格を取っておかなくてはできないことになっている仕事もある。
また、特別なマナーや応対について、事前に最低限マスターしておかなくては、とても現場にでることはできないという仕事もある。





こうした学習と訓練は、いったん、企業の社員、あるいは、プロジェクトメンバーとして採用された後に、「社内教育」として行われる場合もある。しかし、あらかじめ特定の技術や知識、資格を持っていることが、中途採用だけでなく新卒採用でも、最低限の条件となるケースは増えている。





自分がどのような学習をし訓練をしたらいいかを自分で考えて決める能力は、今後ますます重要なものになっていく。
学習と訓練は、現場で仕事をする手前の段階でする技術的・心理的準備の意味がある。
しかし、それだけではなく、同時に、学習・訓練期間中に、自分のなかで、さまざまなシミュレーションをしながら心理的な準備をするプロセスともなる。
また、学習と訓練は、さらに、その仕事が本当に自分のやりたいことなのかどうかを確認する機会にもなる。