いま、働く個人は「この会社で働けば、自分の市場価値(=エンプロイアビリティ)は高まるのか?」という視点で企業を見ています。
給与や福利厚生だけで選ばれる時代は終わりつつあります。
では、あなたの会社は「働くこと自体が成長につながる場所」として、どれだけ魅力的に映っているでしょうか?
「ここで働く意味」が問われる時代
入社志望者や採用候補者が、無意識に考えているのはこのような問いです:
- 他社でも通用する専門性を高められるか?
- 最先端の知見や情報にアクセスできるか?
- 人脈やネットワークが広がるか?
- 自律的に学び、挑戦できる文化があるか?
これらが「ある」と思える会社は、選ばれ、人材が定着し、ビジネスの成果も出ます。
逆に、こうした機能が備わっていなければ、もはや人材を引き寄せ、定着させることは難しいでしょう。
中途入社者は“ハンディなし”で活躍できていますか?
人材の流動化が進むなか、いまや**「いつからいるか」よりも「何ができるか」が問われる時代**です。
たとえ短期間であっても、自らの能力を活かし、成果をあげることができるか。
そしてその成果に対して、正当な評価と処遇がなされるか。
中途で入った社員が、古株に気を遣わずに意見できる職場か。
これらは、企業を選ぶ際のきわめて現実的な基準であり、
中途入社の社員が不利なく働ける環境かどうかも、企業の姿勢が問われる要素の一つなのです。
人が「ここで働きたい」と思う理由は、実は報酬だけではない
報酬や役職といった処遇面は重要です。
しかしそれだけでは、選ばれ続けることはできません。
人は、自分の仕事に誇りが持てるか、成長実感があるか、仲間と学び合えるか――
つまり、「働く時間そのものの質」で企業を評価しています。
あなたの会社には、以下のような環境が整っていますか?
- やりがいと裁量を感じられる仕事
- キャリアを支援する制度や上司の姿勢
- 心地よく働けるオフィスや風土
- 切磋琢磨できるチーム
- 経営陣の誠実さとビジョンへの共感
- 通勤・ワークライフバランスの柔軟性
- 社会貢献やブランドへの誇り
「心理的契約」が短期化しているいま、どう信頼を築きますか?
心理学者エドガー・シャインは、企業と個人は“心理的契約”で結ばれていると語ります。
組織が社員に求めるもの、社員が組織に期待するもの。
かつてはそれが「定年まで」の前提で成立していました。
しかし今は、数年単位の短期的な信頼と実感がなければ、関係は簡単に終わります。
「ずっといてくれるだろう」ではなく、
「この1年、成果を出し合えたか?」の積み重ねで、関係を再構築する必要があるのです。
人事が問われているのは、「成長を引き出せる場をつくれるか」
一人ひとりの働く動機、生活の基盤、キャリアの方向性が多様化する今、
企業はそれに応じた働く場のオプションや柔軟な条件を備える必要があります。
エンプロイメンタビリティの本質とは、
働き手の期待に応えうる「場」としての力を、企業がいかに備えているかにあります。
人が成長できる場をつくれなければ、組織も成長できない。
そしてその責任の一端を担っているのが、人事です。
結びに──働き手が「自らを高められる場」を求める時代に
あなたの会社は、社員に「ここで働いてよかった」と言ってもらえる場になっていますか?
働く人々は、自らのエンプロイアビリティを高めていける場を求め、
そこで成果を上げながら、組織に貢献することを望んでいます。
企業がその期待にどう応えるか。
その答えが、これからの人事戦略の成否を分けることになるのではないでしょうか。