コンサルタントの事件簿

ノートを使ったビジョンコーチングで職場を変えた女性課長


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夢実現や問題解決の相談に乗るときは、
相手の目の前でノートを開いて、
見開きの右上にビジョン、左下に現状を書き、
真ん中の空白スペースに、
「どうしたらビジョンを実現できるか」について
対話しながら実現方法を描いていこう。

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数年前、私は、地方都市の市役所に勤める一人の職員の方から
メールをもらった。

その人は、障害福祉課の新任課長となった女性だった。

『考えるノート』を参考にして部下たちを面談していったら
職場が明るくなったのだという。

この方法を広げていきたいのだが、
役場に来て、講演してくれないか

という内容も書かれていた。

新幹線を名古屋で降り、近鉄に乗り継いで、私はその街に行った。

障害福祉課の主要な仕事は、
窓口に来る障がい者の方、生活保護を受けている方の相談に乗ることである。
大変重要な仕事だ。

結構な重労働になる。
長時間、延々と1人の来訪者と、机をはさんで話し続けることも少なくない。
残業も多い。

同じ職場の十数人の課員たちは、互いに会話する時間もなく、
机は一つの島になっていても、一人ひとり、ある意味で孤独な状態にあった。

役場の人事は、3年程度で違う部署に異動することが通例だ。
障害福祉課は、異動の際、精神的にダメージを受けて去っていく職員もいる。
すくなくとも、メンバー同士が協力しあうような関係はなく、
たのしい職場とはいいがたい状況だった。

これではいけない。
何とかならないものだろうか?

新任課長として障害福祉課に赴任した彼女は思った。

そんな時に、『考えるノート』を読んで、この方法を試してみたという。

その方法とは・・・

 



【準備】
まず、ノートを一冊用意する。

サイズは、B5かA4がよい。
リングノートではなく、見開きがフラットになる普通のノートでないといけない。
罫線、方眼、無地、いずれもオーケー。
ただし、罫線、方眼のノートは、線の色が濃すぎないものがお勧めだ。

ノートを用意したら
相談に乗る相手と向き合って(隣同士に座ってもよい)
ノートを開く。

【ステップ1】
まず、相手に質問する。

「あなたは、どんなふうになりたいんですか?」
あるいは、
「あなたは、どんなことを実現したいのですか?」
と。

ここは、相手が自分の内側を見つめ、未来にイメージを馳せる「間」を
大事にして、進める。

そして、相手から、その答えを聞いていく。

内容を確認し、理解して、場合によっては内容の整理を手伝いながら
ノートの右上に、
「答え」(相手が実現したいこと、すなわちビジョン)
を書いていく。

相手のやりたいことは、イメージを膨らませて
相手以上に、それはいいことだと思えるようにイメージしてみる。

スムーズにいかないときは、相手をほぐしたり、
「自分の場合はこうなんだけど」と、
具体的な例や考え方を示したりもしながら、
対話を大事に相手のペースを尊重して進めていく。

ノートは、最初から終わりまで、相手に見えるように。
ときどき、向きを逆にして、相手と内容を共有して進めていく。

【ステップ2】
つぎに、ふたたび質問する。

「では、今、どんな感じなんですか?」
あるいは、
「これまで、どんな感じで来ていて、
やりたいことを実現するにあたって、どんな壁があると
感じているんですか?」
と。

そして、同じように、
内容を確認し、理解して、場合によっては内容の整理を手伝いながら
ノートの左下に、
その「答え」(現状、これまで、壁となっていることなど)
を書いていく。

★この段階で、ノートの左下と右上が埋まっていて、
真ん中に大きめのホワイトスペースがある状態になっている。

【ステップ3】
つぎに、もう一度質問する。

ノートの見開きを相手に見せながら、
「どうしたら、あなたのやりたいことを実現できるでしょうか?」
と。

「答え」は、ノートの見開きの真ん中にある空白部分に書いていく。
この「答え」は、ビジョンを実現する「方法」になる。
方法は1つとは限らない。いくつも出てくる可能性がある。

また、すぐに、良い答えが出せないことも当然ありえる。
相手が、「やりたいこと」「実現したい状況」について
あまり深く考えてこなかったとしたら、最初のミーティングでは
それほど具体的に良い方法がでてこなくても当然だといえる。

だが、それでよい。
その時を機会に、相手は考えはじめる。
サポートするこちら側も、一緒に考えよう、という姿勢になればよい。

その場では、お互いに未来のイメージを膨らませながら
発想を自由に、対話していけば、十分に次に進める。

こうして、ステップ1からステップ3まで行うと、
ノートの見開きに、

左下に、現状や、これまで、壁となって進めない事情など
右上に、実現したいこと
真ん中に、実現方法

という「絵」が描けていく。

一度のミーティングで、ノートの見開きに最高の絵が描けなくとも
まったく問題はない。
ときには、やりたいことがおぼろげながら見えてきただけで終わり、
真ん中は空白のまま、かもしれない。

それでも大丈夫だ。

いちど、目指すべき未来と現状が視覚的にインプットされると、
頭のなかで、自然に思考は進んでいく。

つぎのミーティングでは、
目指すべき未来のイメージは、
より具体的で、魅力的になっているはずだ。

実現方法も、いくつか具体的に思いついていたり、
さらに、少しやってみて、どうだった、という検証も
できていたりするかもしれない。

ノートの見開きに描く「絵」は、
徐々に良いものになっていけばオーケーだ。

こうして、相手のやりたいことを受けとめ、
それを見える化して、共有し、
やりたいことを、より魅力的なことにしながら
実現のプロセスを支援する、

ということができるようになる。

障害福祉課での「ノートを使った全員面談」は、
会話が少なく、メンタル不全になって移動していく職員がいる課の状況を
打破して、互いに協力し合える明るくムードのよい課をつくりたい。
そして、より良い仕事ができるように変革が生まれる状況をつくりだしたい

という、新任課長さんのチャレンジだった。

この面談をはじめて以降、
障害福祉課の職員たちは、未来に向かって夢をもち、
夢の実現を誰かが支援してくれると思えるようになり、
メンバー同士が、それぞれ自分の夢を語り合い、
互いの夢の実現を応援しあえる関係をつくることができた。

つらいことも共有し、障害福祉課としてどうしていいけばいいかも
自然に話し合うことができるようになってきた。

十数人のメンバーたちにとって、
それまでの〈つらくきつい日々〉は、
〈夢に向かっていけるプロセス〉となり、
職場の〈バラバラだった人間関係〉は、
〈互いにわかりあえているプロの仲間同士の関係〉に
変わっていったようだ。

すべての問題が解決されたわけではない。
まだまだ、課題は山積みだ。

しかし、今の状況は、もっと良い状況に変えていける。

そう誰もが思えるようになり、ひごろから対話ができるようになった。
それが、素晴らしい成果だ。

新任課長さんは、ひとつの職場を変革した。

この方法は、まず自分自身のために、
自分自身のビジョンと、ビジョン実現の方法を考えて整理していくことに
役立つはずだ。

そして、もし、いま、あなたが支援したい人がいるのなら、
ぜひ、その人と一緒にやってみてほしい。
その人の仕事と人生を、今よりもハッピーなものに、
きっと変えていけるはずだ。