コンサルタントの事件簿

未来を探るために錨をおろす






キャリア・アンカーとは、個人が生涯追究していく自分の才能と動機と価値の型である。(エドガー・H・シャイン)





自分が人生においてやっていこうとする行動、計画、選択などは、生まれてから現在までの間に自分の中に形成された基本的なものに影響される。それを、シャインはキャリア・アンカーと呼んだ。





キャリア・アンカーは、「自分に何ができるか」「変わることのない自分の基本的な志向は何か」「自分にとって価値のあることは何か」という、自分のコアにあるものだ。





つまり、自分がキャリアを切り拓いていくときには、だれでも無意識のうちに自分が行動したり、考えるスタイルがある。その背景には、そのスタイルのもとになる体験や、ものすごく感動した話などがあって、それが自分のビジョンにも影響を与えているというのだ。





これはほんとうにその通りで、未来へむけたビジョンを描くとき、「自分の行動や考え方のよって立つところに何があるのか」がわかっていると、迷いがなく自分の進むべき方向性は見えてくる。つまり、自分の未来に関するヒントは、かなりの部分、自分の過去にあるのだ。





地方の遊園地でバイトして、来園者とのふれあいを通して自分が磨かれたという経験をした人がいる。





その人が、大学を出てディズニーランドに就職しようと考えるのは間違っているとはいえないが、もっと「考え方の応用編」があってもいい。





バイトをしたときに何故、自分は生き生きできたのか。楽しいと思ったのか。自分が生かされていると思えたのか。





それを、考えることが大事なのだ。





そこにきたお客さんたちのお世話をして、相手の喜ぶ顔を見て何かを感じたとか、自分で工夫した話し方でお客さんと会話して盛り上がり、感謝され、その瞬間、生きていてよかったと思えた。こうした理由まで深く考えれば、もっと職種の幅を広げて考えることができる。





以前「不安なのにタフな人」というテーマで一緒に話し合った心理学者の内藤誼人さんは、むかし居酒屋でバイトして一日で辞めた。喧嘩をしたわけでもないが、合わないと感じたらしい。いっぽう、チラシを配るポスティングのバイトは長続きした。これは自分に合っていると思ったという。





だが、内藤さんは配送業を自分の仕事にしようとは考えなかった。





居酒屋のバイトが合わなかったのは、決められたマニュアル通りに振る舞い、あらかじめ決められた時間に出勤し、長時間拘束されることが体質的に合わなかったからで、ポスティングが長続きしたのは、ノルマがあっても自分のペースで時間を使えてつじつまを合わせればいいスタイルが合っていたからだ。





物書きを仕事にしているのは、まさにそれだからである。





だれにでも、未来のヒントになる自分の体験がある。自分に影響を与えた出来事を、自分の歴史から振り返ってみるのだ。そしてその意味を考えればいい。





そうすると、きっと、未来に向けて気分良く歩きはじめられる。





自分にとって密度の濃い体験とは何だったか、振りかえろう