自分の蝶を放て!

阪神タイガース能見篤史のビジョナリーなメッセージ

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4/13のプロ野球で、二人の投手が試合後に対照的なことを言った。
一人は楽天の田中将大、もう一人は阪神の能見篤史。

日本ハムの斎藤佑樹との因縁の対決を投げ勝った田中は今季3戦目にして初勝利。「一つ勝っても、次も勝たないと意味ないのでがんばります」
いっぽうの能見は、今季2勝目。「長いシーズン、これから、いいときも悪いときもあるでしょうけど、最後にみんなで笑えるようにしたいので応援よろしくお願いします」

二人とも勝利投手としてのインタビューに答えて「最後にファンに一言」とインタビュアーに求められて出てきた言葉だ。

田中の一言は決意表明で、短期目標に自分を縛っている。2戦先発して勝てなかったという屈辱。自分自身にプレッシャーをかけて、つねに最上のピッチングをしようとするマー君らしい宣言といえるだろう。23歳だが、彼はすでに沢村賞投手なのである。

いっぽうの能見のメッセージは、勝利をもたらした投球を持ち上げられ、盛りあがる一言を求められたにもかかわらず、「まあまあ押さえて」といっているようでもある。
能見は、ファンの意識を「秋」に向けさせている。
「最後にそこに行き着きたいけれど、途中はきっといろいろあるでしょうから、そこは見守っていただき、一緒に最終的なゴール、優勝を目指していきましょう」と、共有してほしい未来像を示したのだ。

能見は32歳。いまでこそ、阪神のエースと言われるようになっているが、決してここまでの道はまっすぐなものではない。高校時代、甲子園にも出ていない。鳥取県大会で優勝しても、選抜には選ばれず、夏は2回戦で負けてしまうということもあったようだ。高校卒業後社会人チーム(大阪ガス)を経て、阪神に入団したのは25歳。一軍と二軍を行ったり来たりして、入団後4年間の勝利数は10。ようやく勝てるようになったのは5年目以降この3年といっていい。(2009年〜2011年まで33勝18敗)
社会人時代から、何度もけがに泣いてきた野球人生。

うまくいくときも、いかないときもある。それが人生。
いいときでもおごらず、悪いときも落ちこまず、のらりくらりと、長い目で未来に向かっていくことの意味を、経験から学んだのかもしれない。

能見は、目先の目標を重視することの危険やむなしさを、いやというほど味わってきたのではないか。
そう思った。
(佐々木直彦)