自分の蝶を放て!

自分一人ですべてを考える必要はない






プロデュースの構想は、すべて一人でやらなくてはいけないわけではない。
たとえば、製品開発のアイディアと技術を持っているエンジニアが、販売やプロモーションを含めてビジネスとしての組み立てを任せられるビジネス・プロデューサーを連れてきて、プロジェクト全体の設計とコントロールは任せて、自分自身はプレーヤーとして思いきり力を発揮するということでも、まったくかまわない。
信頼できるビジネス・プロデューサーと組めるということが、ノウハウ的にも心理的にも最大の成功要因になるのなら、それは、そのエンジニアにとって、自分ができる優れたプロデュースの方法になる。
この場合、このエンジニアはプロデューサーなのかプロデューサーではないのか、と議論することには、あまり意味がない。
一般的には、プロデューサーはプロジェクト全体を統括する役割がある職種だというイメージがある。しかし、ただ一人のリーダーが、すべてを考え、やるべきことをメンバーに指示するべきものだと考える必要はない。
プロデュースは、プロデュースの発案者が思い描いたことが実現するようにチームがつくられ、実現のしくみがつくられて、プロデュースが推進されていくのなら、それでいいのである。
したがって、プロデュースを成功させるためには、自分自身がプロジェクトチームのトップに立たないほうがいいと考えられる場合、リーダーを堂々と人に任せることは優れたプロデュースのあり方となりうる。





本田技研工業の創業者、本田宗一郎氏は、まぎれもないプロデューサーだったが、本田氏以上にプロデューサーだった藤沢武夫氏と組み、役割を分担して「世界のホンダ」という言葉に象徴されるビジョンの実現を目指す態勢ができた。藤沢氏は、本田氏の才能や人間性を生かしきるために、本田氏の苦手な営業や管理業務を引き受け、自分の得意な資金調達や危機管理の才能を生かし、本田氏がやりたいことを思う存分にできる状況をつくった。
それが、ホンダを世界一のバイクメーカーにし、さらにホンダを世界的な自動車メーカーにするというプロデュースを成功させた鍵だったといえる。
「私は戦前から、だれかをとっつかまえて、いっしょに組んで自分の思い通りの人生をやってみたいと思っていました。その場合には、私はお金をつくって物を売る。そして、その金は相手の希望しないことには一切使わない。なぜならば、その人を面白くさせなければ仕事はできないにきまっているからです」
藤沢武夫氏は、『経営に終わりはない』(文春文庫)でこう語っている。
プロデュースはチームを統括する一人のリーダーだけのものではない。チームに参加するメンバーたち一人ひとりが、それぞれにプロデュース能力を発揮することによって、プロデュースは「すごいプロデュース」に発展していく。
ビジョンを理解し、ビジョン実現に向かってそれぞれの立場からプロデュースにコミットメントすることは、チームのメンバー全員に求められることである。