南フランスのトゥールーズに住む友人が、
こんなことを言っていました。
こちらに住む人は貧しい人が多い。
物乞いしないと生きていない人もたくさんいる。
しかし、街の人は、当たり前のように、施しをしている。
お金やモノをあげながら、おたがいに会話している。
まるで、昔からの知り合いだったように自然に。
人々はみな、すれ違う時にあいさつする。
ちゃんと目と目を合わせて。
ボンジュール。ボンジュール。
この街にいて、ふつうに空気を吸って、ときどきカフェにいくだけで、
本当に幸せな気持ちになるよ、と。
フランスは、成熟した国だと友人はいいます。
フランスにも、たくさん解決すべき問題はあり、いいことばかりではないそうですが、成熟とは、国だけではなく、個人個人のテーマでもあり、そこを
多くの人が意識しているのだといいます。
ひとは、歳をとっていくことで成熟した人間になっていける。
フランスでは、そういう認識が共有されているそうです。
たとえば、フランスの娘さんは、マドモアゼルと呼ばれるが、それは決してうれしいことではないのだと。
「マドモアゼル」には、まだ小娘でひよっこだというニュアンスが含まれる。
「マダム」の方が成熟した人で、早くそうなりたいと娘さんたちは思っているそうです。
「マダム」は、男なら「ムッシュ」。
これらの言葉は、日本語では
「おばさん」「おじさん(または、「おっさん」)」
になってしまう!
ニュアンスはまったく違いますね。
ちょっと考えさせられました。
そして、この話には希望があるな、と思いました。
頭に思い浮かんだのが、
日本の田舎にたくさんヒントがある!
ということです。
私の人生のテーマの一つは、
いかに「田舎」を自分の中に取り入れるか
いかに日本の「田舎」をおもしろくできるか
です。
これは、逆説的に、
「都会で働く人たちが、もっと田舎の良さをとりいれて、都会の生活を人間らしいものにする」
ことにつながり、さらに、もともと日本が持っている素晴らしいものを再確認してよい日本を再創造し、世界に発信し、世界が良い状態になるために貢献する
ということにつながるし、つなげたい、という想いもあります。
私は、主として都会の大手企業のコンサルをやってきました。
いっぽうで、田舎にも、ときどき行って、地域活性化のプロデュースを多少なりともやってきました。
日本も、田舎に行くと、街を歩く人たちは、互いに目を見て挨拶します。
日本の田舎は、貧しくても、住むところはあります。
米と野菜は、いざとなればただで分けてもらえます。
大手IT企業の事業所を秋田県の温泉地に誘致することを考えていたことがあります。
都会からやって来る子供のいる人たちが気になるのは教育のこと。
役場の首長さんとも会い、教育課にも行きましたが、現場にも行きました。
小学校に行って校長先生、教頭先生と、受け入れ態勢についてディスカッションしたこともありました。
その帰り道、田舎の風景をスナップしていると、小学生たちが近寄ってきました。
「僕、名前は〇〇〇〇です。僕の家はあそこだよ」
そういって自己紹介してくれました。
そして、3人の友達同士が、思い切りはじけたポーズをとって写真を撮られたがってくれました。
みんな、目は、キラキラしています。
いまの東京で、どこから来たのかわからない初対面の大人と小学生の、こういう交流はあり得ないでしょう。
私は、もともと田舎出身ですが、日本の田舎っていいな、と、ほんとうに思いました。
ビール会社からの依頼で、温泉地でのマーケティング方法を開発する仕事をしていたときにフィールドリサーチで全国の温泉地を回っていたことがあります。
そのときも、同じでした。
どこにいっても、田舎の温泉地の子供たちの目はキラキラしていました。
人が良くて純粋で、未来に向かってなにかをやろうというエネルギーと好奇心にあふれている。
それが、日本の田舎の子供たちの姿。
これをもっと大事にしていく方法はないのだろうか?
そう思わずにはいられませんでした。
つまり、田舎に住み続けて、そこでよい仕事もできるという状態をつくるための方法。
いっぽう、都会で仕事をしていても、日本の田舎の良さを日常に取り入れて
良い生活を味わえるようにする方法。
それがないのか、と。
いま、日本の田舎はどこも、人口が減り続けています。
地場の経済は長期的に右肩下がりといえます。
しかし、そんな中で、うまく商売ができている人たちはいます。
秋田県のある温泉地周辺だけでも、いくつもあります。
たとえば、
●普通なら捨てられてしまうB規格の野菜(形が悪かったり少し傷があるものなど)を扱うマルシェ型の店を共同経営している農家の奥さんたちが運営する「体験交流型直売所」。
地元の人たちからも人気ですが、全国に会員を募り、月々の会費で野菜を定期販売しています。さらに、北海道から高校の修学旅行を誘致し、きりたんぽをみんなで料理したり、農家の民泊をからめて面白い運営をして、安定した収益を得ています。出店する農家が自分の売り場スペースに残る商品が少なくなるとスマホに連絡が自動的に入る、など、販売所ではITも活用。この店に小さなスペースを確保するだけで年間1000万以上売り上げる人もいます。
●撤退したスーパーの後を改造したオフィスで地元の若者60人を新たに雇い、リクルートの情報誌制作をPCでやる請負体制をつくり、伝送で納品するというビジネスをつくった会社。本社は東京。社長さんは、もともと地縁のない人ですが、知人の紹介で訪れたときに、ここで何かできる、という気になったとのこと。
●地元特産の山ブドウを活用して、シャッター街にワイナリーをつくり、フランスの一流シェフにも評価され、東京の店にもおかれるようになった元パソコン教室のオーナー。ワインというのはいろいろと苦労がありますが、今ではコンクールで賞をとるようになっています。
●田舎に戻って代々受け継いできたラーメン店を経営しながら、高速道路のサービスエリアで販売する高級レトルト食材を開発し、売上をあげている元OA機器販売会社営業マン。
難しい米粉めんの開発にも挑戦し、様々なパートナーと交流しています。
●自らブランド米を開発し、パッケージデザインに萌えキャラを使って全国に販売している農大出身の米屋さん。雪の降る冬の秋葉原にテントを張ってプロモーション販売したのですが、全く売れず、肩を落としてたのですが、秋葉原のラジオでコアなファンのいるコスプレ系の歌手兼声優が支持してくれたことで、秋田に帰る途中でスマホに次々と注文が入ってきてブレーク。いまでは、東京で販売会をすると、その米屋さん目当てでたくさんのファンがやってきます。いまでは、東京でも多くの店でそのブランド米を使用。毎年ファンが訪れる秋田での田植えツアーも盛況。
●女性たち数人が集まってスイーツの製造所をつくり、地元特産のリンゴを使ったアップルパイを3000円で全国にネット販売して成功を収めた女性たちのグループ。アップルパイという加工食品は、日持ちするところがポイントですね。
●田舎が気に入って住むようになった京都出身のシステムエンジニア。夏場はカシスを栽培してジャムをつくり、東京にも売りに来ます。冬場はPCを使ってシステム開発の請負をやっています。はじめて冬の大雪を見たとき、あぜんとしてしまったらしいですが、マイペースでやりながらなじんできています。
人口の3万人ほどの街でも、こういう人たちがいます。
彼らの特徴は、都会と行ったり来たりしているということ。
営業活動もある。都会の人たちと情報交換することもある。
そうやって、商売をうまく育てています。
こういうことができるのです。
都会で働く人たちは、逆に、田舎の良さをもっと日常に取り入れることができると私は思います。
旅行に行く、だけではなく、何か仕事でつながる、とか、田舎にいる面白い人とつながる、ということは、じつは誰にでもできると思います。
私自身、田舎に行くと、癒されますが、それだけではなく、田舎で、工夫して、よい人生を切りひらいている人と知り合うと希望を感じます。
日本は、国として、人口が減少しているわけですが、東京では、今も都心は再開発され、新しいビルが建ち、人口集中し、電車は満員状態です。
毎日、弁当難民、トイレ難民が多発しているビルも少なくありません。
なにか大きく変えないといけないんじゃないか、と私は思います。
私の友人が、いま、トゥールーズで味わっているような幸せな感覚を、
誰もがあたり前に味わえる社会の実現は、そんなに難しいのでしょうか。
私たち一人ひとりが、自分と周囲にいる人の日々の普通の幸せを肩の力を抜いて、自分と向き合って考えたら、答えは出てくるのではないか、
そして、
いろんな動きを起こせるのではないかと私は思っています。